閑話23 いのち
【柚季桜視点】
「サクラ!!」
病室にアレンが入ってくる。
「……ソラ様もいらしてたのですね」
「じゃあ、私はこれで。お二人とも、おめでとうございます」
「……二人とも?」
「ありがとね、ソラちゃん」
私が再びお礼を言うと、彼は部屋を去っていった。
「サクラ、本当に良かった……」
「アレン、貴女にも謝らないといけないわね……」
「いいんだ。君が無事ならそれで」
愛しのアレンにまた逢える。
生きていて嬉しかったことの一つだ。
「ソラちゃんには一生頭が上がらなくなっちゃったわね……」
「そうだね。流石は神様に愛されたお方だ」
いつものようにソラちゃん信仰をするアレン。
「ふふ、私もそろそろソラ教の教徒にならないと……かしら?」
「むしろまだ教徒じゃなかったことに驚きだよ」
彼はそういうの嫌いそうだしね……。
「私も遠征先で貴重な体験をさせてもらったよ」
「迷宮にでも行ったの?」
「ソラ様から聞いたのかい?」
「これをもらったのよ。私はしばらく使わないだろうからあげるわ」
「なるほど、『ワープ陣』……。それなら訓練場から迷宮行きとして置かせて貰おうかな」
ヒントを与えても気が付かないアレンに少し呆れる。
「ソラちゃんに、『今は貴女だけの命じゃないんですから、尚更大事にしてください』って怒られちゃったわ……」
「ええと……私のことも心配されていたということかい?確かにサクラの身に何かあったら、それは私も悲しいが……」
嬉しいことを言ってくれるが、欲しい反応はそうじゃない。
珍しくカンの鈍い旦那にしびれを切らした私は、別の手段を取ることにした。
<サクラからの御告げコーナー!>
突如始まったお告げに、姿勢を正すアレン。
<みんな、私の誕生日を祝ってくれて、ありがとう。ソラちゃんのおかげで、こうして生きて帰ってくることができたわ。私はとても幸せ者ね>
アレンにウインクして、次の言葉を告げた。
<ソラちゃんには、とても怒られちゃったわ……。もう、私だけの命じゃないんだからって。私にはアレンと、このお腹に新しい命がいるんだからって……>
「ま、まさか……」
目を見開くアレン。
その顔が見たかったのよ。
私の好きな、可愛い顔がね。
<これからもこの子共々、私たち親子をよろしくね――>
お告げが終わると、嬉しそうなアレンの顔が見えた。
「しばらくは、お預けよ。我慢できる?パパ……」
「……そっちこそ、ママ……」
下世話な会話が尊く感じるのも、死を彷徨ったからこそかもしれない。
「そうね、私が我慢できないかも……」
「……やけに素直だね?」
おっかなびっくり聞いてくる。
別に変なもの食べたわけじゃないわよ……。
「そうね。文字通り『寂しすぎて死にそう』だったんだから!埋め合わせ、して頂戴ね」
「はは、それは一生をかけて償わないといけないね……」
自然と重なる顔に、改めて生きている実感を覚えるのだった。




