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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第872話 渡河

「『やっと一息』つきましたね」

「しかし、見事に焼け野原だな……」

「毒が流れている訳じゃないですからね。焼畑農業じゃないですけど、灰が肥料になってうまく循環すると思います」


 平和になったときのことはまたその時に考えたらいい。

 今この場に先住民が居るなら話は別だけど、そんなわけがないからね。


「この後はどう進んでいきますか?」

「まずは川越えだね。川を越えたらあの火山に向かうよ」

「川を越えて、火山に入ってからが本番ですからね」

「ともあれ、どうやって渡る?」


 川幅は結構広く、対岸まで渡るには流石に距離がある。

 身体強化しても届かないくらいには

 正直ハープちゃんやシルヴィ、朱雀に乗せてもらって飛んでいく手もあった。

 けれど荷物はアイテム袋があるから送る必要がないにしても、親衛隊を全員運ぶには何度も往復しなきゃいけなくなって大変だ。


「エルーちゃん、橋架けられる?」

「はいっ、お任せください!氷の道(アイス・ロード)


 たまにエルーちゃんが尻尾をふりふりしてくるわんこみたいに見える時があるのよね。

 でも可愛いからヨシ。


「さ、進もう」

「リン様もここにいらしたことが?」

「うん、ゲームでね。でも、こんなに楽に進めるのなんて初めてだよ」

「そうなのですか?」

「天先輩はおかしいんだよ。エルーちゃんも毒されちゃ駄目だよ?」

「私は身も心もソラ様に捧げておりますから……」

「駄目だこりゃ……」


 諦めないでよ。


「危ないっ!」

「ゲシャアアアァ!」


 水面から急に飛び上がったのは鮭でもウナギでもなく、超巨大な鮫だった。

 シャチはゆうに超える大きさだろうか。

 口は開いただけで丸呑みできるくらいに開いていた。


「「――弍の極意、紫電(しでん)――」」


 藤十郎さんと涼花さんのダブル抜刀極意の突き術で、一瞬で鮫が刺身になってしまった。


「敵は倒せるからいいですが、水しぶきが飛んでくるのが嫌ですね……」

「ゴスロリソラ様があられもない姿に……!?」

「こら、エルーちゃん。……どこ拭いてんの?」

「こ、これは……!その、お約束かと思いまして……」


 どこの世界に股間を真っ先に拭くお約束があるんだよ。


「どうして川に鮫が……」

「そこはまぁほら、異世界だし?」

「ソラ様が言うのは違いますよね……」


 良かった、川に鮫が現れることはこっちでも不自然だったようだ。


「分かっていたこととはいえ、どこぞの鮫映画かと思うくらいに不自然な登場の仕方ですね……」

「いや、でもそういう鮫映画はこういった非日常さや不自然なところに恐怖感を覚えたり楽しみを見出だすものだから……」

「意外です。天先輩、そういうの見るんですか?」

「いや、昔お父さんがそういうの好きだったから……」


 僕一人では見ないし、僕が映画なんて楽しめるだけのお金は持ってなかったよ。

 小さい頃にお父さんの膝にちょこんと乗って見ていたんだよね。

 お父さんは感想話したがりだったから、いつもその良く分からない解説を聞いていたっけな。


「なんの話だ、それは……?」

「ええと、向こうの世界の……その、鮫が登場する映像作品の話です」

「それは、『どうが』なるものの話か?」


 おっと、涼花さん以上にスマホ使えない人がいるとは思わなかった。


「すまない、一度教えたのだが……」


 涼花さんが使えないのは師匠譲りだったのかも。

 藤十郎さんとサクラさんで対決させたらどっちが勝つんだろう……?


「ま、まぁ藤十郎さんがセインターなんてやったら、女性に超人気出そうですし、嫉妬しなくて済むと思えば……」

「そ、それもそうだな……」


 ケイリーさんもそれで納得したらしい。

 流石にアレンさん程じゃないけど、Sランクで聖女親衛隊副隊長で、なおかつ少し渋みのあるイケメンなんて、設定が渋滞しすぎて現実味がないレベルだろう。

 いや、それを言ったら正直ここにいる人達なんて、みんな設定盛り過ぎなんだけどさ……。

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