閑話232 吸血鬼
【アヴリル視点】
「はぁ~あぁ~……暇ぁ……」
「アヴリル、足を広げて。はしたないですよ。急にソラ様が帰ってきたらどうするのですか?」
「まだ帰ってくるわけないっしょ。こんなことならアタシも付いてけば……」
『奈落』の洞窟の奥地のバーでいつものようにトマトジュースを飲む。
こんなものでは満足できない。
ソラちの血を飲んで体力が回復してからというもの、肌が艶々になって生き生きとしている。
肌だけでなく、バストもヒップも上がって引き締まった身体を手に入れた。
吸血鬼として生きるために義務で血を飲んでいたのだが、あんなに美味しい血を知ってしまえば血中毒になってしまうのもわかる。
「てぇへんでやんすッ!姫様あぁぁッ!来たでやんすよッ!」
「ありがとっ!パパ、奈落のみんなをお願いね!」
アタシは報告に来てくれた顔を覗き込む。
「ええと……ヤンス?」
「ハンスでやんすよ!」
「紛らわしすぎっしょ……。語尾渋滞みたいになってんの、ウケる(笑)」
名前を覚えさせる気があるのか甚だ疑問だ。
「それで、デンス」
「ハンスでやんすッ!」
「イイから!どこにいんの?」
「こっちでやんす!」
その時、通りすぎた扉がこじ開けられ、筋骨隆々の女がその扉ごと投げ飛ばされた。
壁に打ち付けられたのを見たアタシは、その隙に部屋の中に入ることにした。
「ヒィ~~ッ!?」
「うっっわ……ウィルス撒き散らしとか、ガチサゲ~~~~↓↓↓↓」
ここはいわば兵糧。
食べ物を保管するところを真っ先に狙って、ウィルスで腐らせるのが目的とか、鬼畜にも程がある。
「ヴヴヴ……」
「ヴァァァ……」
「うひぃ~!?もうゾンビなってんじゃん!?」
「アヴリル!早く逃がせ!」
魔王四天王が一人、狂戦士。
こいつのせいで、一年前のアタシは操られてしまった。
「あいあい(笑)『血清生成』!」
闇魔法で尻尾を増やし、その尻尾からアタシの血を注射する。
ソラちから貰った血を分けてあげる。
「ん、あれ……?」
「俺は一体……あれはカリシュナ様に、姫様!」
「うし、治ったね♪ホラホラ、早く隣の部屋から逃げて!」
「へ、へいっ!」
「こっちでやんすよッ!」
「デヤンスに続けッ!」
「ハンスでやんすゥ~~!!」
「いいから、逃げるんだよぉぉ~~ッ!!」
『奈落』の皆が逃げる時間を稼ぐためにも、こっちにターゲットが向いているのは好都合。
幸いこの日のためにアタシとママのレベルなら、狂戦士のウィルスで操られたりはしない。
「さて、アヴリル……お前、弾は残ってるか?」
「今全員を治すために、全部使っちった♪」
アタシ達吸血鬼は吸った血に含まれる魔力の属性を使って様々なことが出来る。
たとえば、ソラちの光の魔力を使って狂戦士の狂戦士ウィルスの血清を作って注射するという医療行為。
他にはその属性の魔法を数発限りで放ったりも出来る。
本来この光の魔力は狂戦士に注射のようにぶっ指して注入することで弱体化させるのが目的だったが、世の中そう上手くはいかない。
「ゲオオオオッッ!!!!」
雄叫びだけでも吹き飛びそうな威圧感に、一年前より魔力が強くなっているのを感じる。
強くなったのはこちらだけではなかったらしい。
「魔法なしはジリ貧だな……」
「ヤるしかないっしょ!」
「来るぞ!」
「ウガアァァアアアッッッッ!!」
タックルなのかパンチなのかわからないそれは、凄まじい音とともに壁に巨大な円の穴を空けた。
「くッッはぁッッ!?」
アタシ達は左右に分かれて避けるも、その速さから出てくる衝撃波は避けられなかった。
「アヴリルッ!!」
カンストした防御力を上回る攻撃力と素早さ。
胴体からは想像できないその値は1500と言われており、器用さと闇魔法意外の全魔法耐性を全て失った代わりに得た脳筋ステータス。
一撃がデカすぎる。
その上ママも脳筋だし、アタシも闇魔法しか使えない。
「ガアアッ!!」
「お前にアヴリルはッ!渡さんッッ!!」
ママが腕を組み合うも、明らかに足りないステータスで壁際に押されていく。
『ディバインレーザー』
反対側の壁に付いて押し潰されそうになったその時、一筋の光の柱が壁を貫通して斜めに突き抜けていった。
「清き願いは流星となりて女神に伝えっ!悪しき心は星の藻屑へっ!!光魔導師ステラっ、参上ですっ!!!」




