第87話 安堵
僕は一人病室に向かう。
かちゃりと扉を開けると、メイドさんと談笑しているサクラさんの姿があった。
「……ソラちゃん」
「サクラさん、どこもいたくないですか?大丈夫ですか?」
中に入って歩み寄る。
「ええ。ソラちゃんが助けてくれたのよね?」
「……はい……。魔王も、倒しましたから……」
「……ソラちゃん?どうかした?」
サクラさんの元気そうな顔を見たとき、もうだめだった。
「……っ……よかった……本当にっ……」
「ソラちゃんのおかげよ。ありがとう」
「『私の前から突然いなくならないでね』って言っておきながら、サクラさんの方から勝手にいなくなろうとしないでくださいよ……」
「ごめんね……」
「許しません……許しませんから……。私、本当に死んじゃうかと思ったんですよ……?」
今まで溜め込んでいた感情を全部吐き出すように、みっともなくサクラさんに泣きついた。
それから僕とサクラさんは最近の出来事を話していた。
「セイクラッドはどうだった?」
「疲れましたけど、楽しかったですよ。アール王子とも仲良くなれましたし……」
「えっ……」
ジト目をするサクラさん。
「何か変なものでも食べたの……?それとも男の子同士、何か通じるところでもあったのかしら……?」
「それはどちらかというとアール王子に失礼ですよ……」
僕は西国での出来事をサクラさんに説明した。
「そうだったのね……私も勘違いしていたわ。ごめんなさい」
「私だから気付けたんだと思いますし、気にしないでください」
「そう言ってくれると気持ちが少し楽になるわ。それより、遠征の途中で呼び出してしまって申し訳ないわね……」
「そんなの、気にしないでくださいよ……。サクラさんの命の方が大事なんですから」
「相変わらず優しい子ね」
「それに、今は貴女だけの命じゃないんですから、尚更大事にしてください!」
「!?」
サクラさんの驚く顔に、僕はアイテムボックスからブランケットを取り出す。
「サクラさん、誕生日おめでとうございます。新しい命のためにも、これでお腹は冷やさないようにしてくださいね」
「……いつから、気付いてたの?」
「魔王討伐後、サクラさんを『患グラス』で診た時です」
「…………女性の内側を覗くなんて、ソラ君のえっち……」
「……都合の悪い時だけ男扱いしないでくださいよ……。私は本当に心配したんですからねっ!」
その上情事まで知らされたんだから、完全に僕の方が被害者だよね……?
「冗談よ、ありがとう。大切に使わせてもらうわね」
「あとはこれです」
『ワープ陣』を取り出して渡す。
「『魔王石』と『魔法陣の絨毯』で合成クラフトしてもらいました。絨毯は、アレンさんが取ってきたものなので、『ワープ陣』が不要ならアレンさんにでもあげてください」
「そうだったのね。ありがとう」
外から音がしたのに気付いた僕は立ち上がる。
「後が支えているみたいですから、私はこれで」
「あら?アレンの情けない顔、見ていかないの?」
情けない顔て……。
「馬に蹴られたくはないですから……」
突如ガチャンと開けられた病室の扉。
「サクラ!!」
アレンさんが入ってくる。
「……ソラ様もいらしてたのですね」
「じゃあ、私はこれで。お二人とも、おめでとうございます」
「……二人とも?」
「ありがとね、ソラちゃん」
これから語られるであろう真実に祝福をし、僕だけ部屋を出る。
部屋を出て久しぶりに聖女院への自室へ戻ると、誰もいなくなったからか、込み上げてくる気持ちと雫が止まらなかった。
でもたまには誰にも見られずに感情のままに任せるのもいいかもしれない。
僕は久しぶりにふかふかの大きなベッドに飛び込むと、感情に身を任せてそのまま深い眠りに落ちていった――




