第865話 百足
魔境では、他の国には出現しない魔物が沢山居る。
邪神が人間を殺すために作り出した兵器である節があるけれど、だからか彼らはおおよそ食事を取るようにからだの構造が作られていない。
むしろ身体の全ての部品が僕たちを殺すためにできていると考えていい。
魔物に同情するのはおかしな話かもしれないが、彼らは前世での僕に似たところがある。
操り人形として生き、そしてそのまま死ぬ時まで他人のことを考えなくてはならない、人生における捨て駒。
いや、今はそんなことを過去に浸っている場合ではない。
たった今身震いしていまにも切りかかりそうになっている涼花さんに後ろから抱きついて必死で止める。
咄嗟の出来事に、降神憑依を解いていたのを後悔した。
でもオーバークロックのようなもので、何時間もやっていると主に僕の身体の消耗が激しすぎるんだよね。
寿命が縮むのは置いといて、解除したときの疲労感は魂を燃やしたような感じで、
「っっっ!!!!」
「涼花さん、ギカント・センチピードに斬撃は駄目です!」
「っ……!『超重力』!」
僕のアドバイスに機転を利かせて押さえ込むだけにする。
邪神討伐のシミュレーションは綿密に緻密に行ったが、こんなことなら、もうちょっと時間をかけて各出現魔物の特徴と倒しかたも話すべきだったかもしれない。
僕に向かって襲ってきたギカント・センチピードという超巨大なムカデ。
その特徴はただ普通のムカデよりデカイというだけではない。
「エルーちゃん!」
「はいっ!玄武様!テティス様!」
「あいよっ!」
「任せなさいっ!」
掛け声と共に玄武とティスがエルーちゃんの手に描かれた魔法陣から飛び出す。
「いくでぇ!」
「「「絶対零度!」」」
巨大な魔法陣が前方に現れると、森一帯を破壊するような氷に覆われていく。
目的は森林破壊ではなく、氷によって動けなくして倒す方法だ。
「凄まじいパワーだ……これが、水の神獣の力……」
ゲーム同様体力がなくなるとドロップ品を落として、死体は消えるのがこの世界のルール。
それがどうなっているのかまではよく分からないが、今回の場合はそのルールに助けられたことになる。
「涼花さん、もう大丈夫ですか?」
「あ、ああ……すまない、取り乱して。だが、どうして斬撃が駄目だったんだ?」
「斬撃そのものが、というより……中身が飛び出るのが駄目なんですよ。ギカント・センチピードの体内を流れているのは臓器でも血液でも魔力でもありません。超強い酸の毒です」




