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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第864話 節魔

 ひとくくりに魔境と言うが、領土単位で言えばその広さは南の国ソレイユを遥かに凌ぐ広さだ。

 正直言うと人々の住む……いや聖女の認知している五ヶ国を全て含んでやっと領土で勝るかもしれないくらいに、放置されてしまったのだ。

 そう、五ヶ国しかないわけではなく、この世界はまだまだ広い。


 南の国の奥に移り住み魔境を築き上げた邪神だが、ソレイユ側には僕たち聖女やエリス様の目があって広げられなかった。

 しかし逆サイド、つまり魔境よりもっと南には何も阻む者などいなかった。

 まるで放置した虫歯のように領土をじわりじわりと広げること数万年。


「これは……凄まじいな……」


 ただひたすらに丘や山々があるだけ。

 いわばただ獣達が潜む自然そのもの。

 何故これだけの自然が放置されているかというと、ここの魔物達は先程話したとおり種の繁栄という概念自体をとっぱらってしまったただの傀儡人形のようなもの。

 要するに食事という概念がなくとも、主である邪神からもらった魔力を糧に動けるということだ。

 倒す以外の方法で解放することはできないにしろ、ここにいる魔物達も悲しい運命にある者達なのかもしれない。


「下手すると近辺の攻略だけでも一ヶ月はかかるかもしれませんね」

「ソラちゃん、なんだかわくわくしていないか……?」

「どちらかというと、私より魔物が湧く湧くしてると思いますけど……」


 僕も今は眷属憑依を解除してスリープモードだ。

 移動中などは節電ならぬ節魔及び節神をしないと、本命の邪神と対峙したときに全力を発揮できなくなってしまう。


 しかしわくわくしているというのはあながち間違いでもない。

これほどにまで広がると、自然と僕が攻略したことのない範囲も存在することになる。

 ゲームで行くことのできなかったエリアへ足を踏み入れるなんて、やりこみまくった原作ゲームファンからすれば、永年待ち望んでいた、オンラインアップデートのようなものだ。


「サーベルフィッシュゾーンも中々にヒヤヒヤしたがな」


 サーベルフィッシュとは、何故か空中を泳ぐよく分からない魚だ。

 空気中にある魔力の波に乗っているらしいのだが、問題はそこではなく、尖ったくちばしがかすっただけでも肌が切れるくらいの鋭いナイフ。

 それが群れを成して、切れ味抜群で押し寄せてくる。


「女性には致命的ですものね、肌への傷は……」


 僕がそう言うと、何故か近くに居た皆が口をとがらせた。


「「御身もですよ!」」

「まったく、これだからソラ様は……」


 いや、僕の台詞だよ、ケイリーさん……。


「これより森に入る。全員警戒せよ」

「あ、涼花さん……その……」

「隊長、後ろ見た方がいい」

「あっ……」


 僕が指を指した後ろを振り向いた涼花さんの顔が青ざめていく。

 そこにいたのは全長15メートル以上もある、ムカデだった。

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