第857話 後任
「学生服着たんだし、学園デートしましょ?」
僕もあと卒業式を控えているのみ。
制服を着られるのもあと数日の間だけだ。
「私、もっと早くこっちに来たかったです……。そうしたらもっと沢山天先輩と学園の思い出作れたのに……」
婚約してあんなことまでした仲なのに、まだまだ凛ちゃんとはぎこちない気がする。
周りが余計なお節介をするせいで、当人の心の準備ができていないかのようだった。
いや、それ以上に『推し』って概念が強い意味を持っているのかもしれないけど。
「ごきげんよう、ソラ様、リン様!」
「ごきげんよう、ええと……」
碧髪でスーツがよく似合う先生だ。
新任の先生かな?
「白柳と申します。もしかして、逢瀬のお邪魔をしてしまいましたか?」
手を繋いでいたことを忘れていた。
離そうとしたら逆に絡めて恋人繋ぎをしてきた。
僕の意思に反して人前でいちゃついてしまい、恥ずかしさに顔を赤らめていると、白柳さんはくすりと笑っていた。
「あら、本当にお邪魔をしてしまったようですね。お二人ともお誕生日おめでとうございます。お二人に直接お祝いできたことを光栄に思います」
「ありがとうございます。あの……もしかして、マリちゃん先生の後任の方でしょうか?」
「ええ。マリエッタ様から引き継ぎさせていただいております」
へぇ、東の国にも有名なクラフト研究家がいるんだね。
マリちゃん先生の後任ってことは、相当優秀なのだろうか。
「ふふ、梛の国でもクラフト研究は浸透しておりますよ」
「すみません、顔に出ていましたか?」
「私はそこで次長をしておりました。名ばかりのものですけどね。所長は他人に教えるのが下手なものですから」
「本当に優秀なのはコミュニケーションを取れる人達なのですけどね」
「聖女院のお抱えはそういうお歴々のみだとか。エレノア様は会話の先読みをして話を進めるとお聞きしました」
「あの人は参考になりませんから……」
本当の天才というのは僕みたいなエリス様のお陰で恵まれただけの人間じゃなく、ああいうのを言うのだと痛感させられるのがエレノアさんだ。
「白柳さんも学園の給料に納得がいかなければいつでも聖女院の門を叩いてくださいね。ここの理事長は職員を買い叩いた実績がございますから」
「お仕事を始める前から勧誘しないでください。ちょうど娘が聖女学園に通うので、渡りに船だったのですよ」
それなら尚更聖女院で働いてもいいわけだけど、あまりしつこく言って命令だと捉えられても困るので、「頑張ってください」とだけ言ってその場を去ろうとした。
その時。
「きゃあっ!ソラ様とリン様よ!」




