第856話 口紅
「凛ちゃん、改めてお誕生日おめでとう!」
「天先輩もおめでとうございます」
この時期、盛大に祝われる毎年の聖誕祭。
今年は凛ちゃんと僕の誕生日が二日違いということで、ちょうど真ん中の日に二人分の生誕を祝う会をしてくれた。
この日ばかりは祝日になるけれども、なんというか……誕生日とクリスマスが一緒に祝われるような感覚に近いものがあるのかもしれない。
ともあれ僕たちにとっては戦争前の最後の誕生日でもある。
有意義に過ごしたいということで、今日は二人でデートだ。
「どうして制服のお姿を?」
「制服デートだからね。見納めする前にこれでデートしたいんだって」
「なるほど、そのお姿で『したい』のですね……」
「や、やめてよ東子ちゃん……!」
まあデートである以上それも含まれていることだろうけど、公開処刑もいいところだ。
「ソラ様もお髪も延びてきて、できることが増えましたからね。お二人ともお任せでよろしいですか?」
「うん、お願い」
東子ちゃんとエルーちゃんはお互いに目を合わせると軽く頷いた。
セミロングまで伸ばした地毛は毎日エルーちゃんのお任せで髪型を作ってもらっている。
エルーちゃんは僕の髪が大好きらしく、曰く他の誰よりもサラサラなんだとか。
「お髪を触っているだけでご飯三杯はいける」とかいうよく分からない評価をもらっているが、それくらいエルーちゃんは僕の髪にかける想いがあるみたい。
衣装は他の人に任せることが多いが、髪だけはほとんどエルーちゃんに決めてもらっている。
その技量は三年も経ったからかは分からないが、もはやメイドではなく、完全にヘアメイクアーティストさんだ。
「できました」
「わっ、おそろいだ!」
「推しと同じ髪型……!!!はぅぅ……」
お互いに編み込みサイドハーフアップでスラッとしたセミロング。
そういえば女装だと、『恋人とお揃いの髪型』というのができるんだよね。
もはや概念みたいなものだけど、ただの異性ならできないのかもと思うと、ちょっと特別感が増してくる気がする。
「可愛いね」
「どの口が言ってるんですか……」
「あっ、口紅ついてないよ」
「えっ、あ、ほんとですね」
「ちょっと待ってね」
そこであることを思い付いた僕は、口紅を自分に少し多めにつける。
紅過ぎずベージュで塗るとプルプルになる、僕のお気に入りの口紅だ。
「んっ」
「んんっ!?」
そのまま凛ちゃんの唇を奪うと、僕の唇でゆっくりと馴染ませるように凛ちゃんの唇へと紅をのせていく。
最後に少し弾くように唇を解放すれば完成だ。
「ぷはぁっ、これでお揃いだね」
「んんんっ……そらせんぱぁい……」
「なんというテクニック……!」
「見ているだけのこちらまでじわっとキてしまいますね……」
いけない、朝から湿り気が高くなってしまったようだ。




