第852話 保存
壁一面に、僕、僕、僕。
私服スカートの僕、ナース服姿の僕、メイドの僕。
なんか額縁が水色のハートになっていて、めちゃくちゃ可愛く飾られているけれど、被写体が僕で残念だ。
「凛ちゃん、これは何?」
「ええと……その、天先輩との思い出をまとめた部屋です」
「……嘘つき」
「どうして……」
「これが僕との思い出だと言い張るのなら、二人で写っている写真を用意すべきだったね」
見事に僕しか写ってない。
全部凛ちゃんに撮られた覚えはある。
可愛く飾られているものの全てカメラ目線なのがかえって四方八方から見つめられているみたいでちょっと不気味だ。
「それに、このよくわからない油性ペンは何なの?」
なんで油性ペンなんか飾ってるの?
「こちらは色紙にサインを書かれたときについでにリン様にお渡ししたサインペンです」
「えっ、普通に怖い……」
「うぅ、嫌われた……しにたい」
「ですから、言い訳をご用意していないのでしたら飾らない方がよろしいとあれほど申し上げましたのに……」
「そもそも、この部屋って誰の部屋でもないよね?」
「えっ、そうなんですか?」
ある意味僕と凛ちゃんの部屋を繋いでいる廊下みたいなものなんだから、誰の部屋とかじゃないんじゃないかな?
「まぁ私も使う予定なんかなかったし、別に良いんだけどさ……」
そのとき、急に違和感を思い出した。
「……?」
「どうしたんですか?」
よく考えると、僕はこの部屋に来たのがはじめてではないはずだった。
「ここってこんな狭かったっけ?」
「ぎくっ」
うわ、わかりやすっ……。
具体的には先ほど三畳ほどの部屋と言ったが、実際にはこの部屋はもう一畳奥行きがあるはずだった。
それが不自然にも可愛らしい水玉模様のパーテーションで区切られていた。
「……ソラ様、これ以上死体蹴りをなさるのはよろしくないと存じます」
死体蹴りされているのはどう考えても僕の方でしょ。
こんな羞恥の塊のような部屋をエルーちゃんにも見られて、どんな気持ちでいれば平静を保っていられるんだよ。
「東子ちゃん、素直に答えてくれたら、今日は東子ちゃんのしたいことなんでも一つ叶えてあげる」
「そこの暖簾は15禁コーナーです」
「ちょ、東子ちゃんっ!?」
ものの一秒で意見を変えて自分の主を売ったよ、この子……。
凛ちゃんの部屋側に暖簾があったので入ってみると、そこには僕のパンティが飾られていた。
パンツではなくパンティだ。
時々僕が何故か婚約者達に着せられる、女性用の下着の方だ。
もう色々と終わっている。
「もうやだ……」
いや、完全に僕の台詞だよっ!?
最近なくなっていたとばかり思っていた下着とかブラとか、あれやこれが続々と見つかっていた。
「凛ちゃん、説明なさい……!」
この話の終わっているところは僕の私物を勝手に盗んだことでも、それが僕の肌に直接触れていた下着などの品々だったことでもなかった。
丁寧にショーケースに飾られていたそれにはなんと、『●液付き(未洗濯)』と書かれていたのだ。
僕は絶句しそうになるのを必死で押さえながら、主犯に説明を求めた。
「……凛ちゃんっ!!」
そこから一時間、主を止められなかった東子ちゃんを含めて倫理観を教えるべく説教を行ったのだった。




