第851話 声援
期末試験が迫る頃、僕は凛ちゃんに勉強を教えていた。
「う゛ぅ゛……世界からテストが消えてなくなればいいのに……」
今回は伝家の宝刀真桜ちゃんの指導は使えない。
僕たちがこうして試験勉強真桜ちゃんは前線で守りに徹してくれているからだ。
いや、普通一歳児に教わって尊厳はなくならないのかと聞きたくなるが、真桜ちゃんなんて僕より全然頭良いからね……。
彼女はそんなこと絶対に言わないだろうけど、彼女さえ望めば別に学園に通わなくとも卒業試験さえ受ければ今からでも聖女学園を卒業できてしまうだろう。
「贅沢なこと言っているのは分かってるけど、天先輩が応援してくれたら頑張れる……」
「仕方ないなぁ……」
「えっ……」
応援といえば、チアリーディング。
この聖女院、何故か多種多様な服が用意されているんだよね。
ナース服とかチャイナ服とかバニーとか逆バニーまで、何の用途で使うのかよくわからないコスプレ衣装が沢山ある。
魔力で伸縮自在だから誰でも着れるし、こうやってチアスカート姿も体格が小さな僕にフィットしてくれる。
「いけ、いけ、凛ちゃん♥️がんばれ、がんばれ、凛ちゃん♥️わーー!」
「「わーー!」」
ポンポンをフリフリしながら足あげダンスを披露する。
見せパンを履いてはいるけれど、足あげるとスカートめくれるの落ち着かなくなっているのは女子脳になりつつあるのかもしれない。
「ん~~元気出た!」
「良かった」
いつの間にか東子ちゃんは白いサイリウムを両手に持ってるし、凛ちゃんはうちわを取り出して両手に揺らしていた。
そのサイリウムとうちわ何処から出してきたんだよ……。
それにうちわに丁寧に『ソラちゃん♥️こっち見て♥️』とか書いてあるし。
いつ作ったの、それ?
「違う元気まで出ちゃったかも……」
逆効果じゃん。
その言葉、僕の方が言って呆れられるのは分かるんだけど、逆セクハラされるとは思わなかったよ。
いつの間にか動画撮られててセインターで晒されてるし、僕の恥が全世界に公開されただけで、正直やらなきゃよかった。
「天先輩……このままじゃ、勉強に集中できない……」
「も、もぉ~~……仕方ないなぁ……」
「やった♪」
凛ちゃんも最近勉強を頑張っているらしいと東子ちゃんから聞いているし、来年からはEクラスに上がれそうなくらいの実力はあるみたい。
まぁ聖女特典で戦闘実技満点なのにFクラスに居たのが逆に奇跡みたいなものだけどね。
流石に凛ちゃんのお部屋にニオイを残すのは良くないのでいつものように僕の部屋に移動する。
僕の部屋と凛ちゃんの部屋は特殊で、実はそれぞれ3つある。
後宮の大きなくまさんベッドがある部屋は婚約者達と僕の共用の部屋だ。
また、後宮に居てもプライベートな時間を取りたいときもある。
そんな時に使うのが後宮側にある六畳くらいの各人の個室だ。
二人で過ごしたいときや皆で寝たりしないときにはそこを使うこともある。
そして最後に僕たちの対外的な私室だ。
一応婚約を発表しているとはいえ、対外的に来客があった時や他の聖女に後宮に案内するわけにはいかない。
そこで案内するのが僕の部屋。
あの皆が空色にしてくれたぬいぐるみ部屋だ。
そして地味に僕のぬい部屋とエルーちゃんの部屋が繋がっているが、エルーちゃんの部屋に入る扉の対面にも扉があり、そこから入って一部屋挟んだところに凛ちゃんの部屋がある。
要するに今いる凛ちゃんの部屋と僕の部屋は、この三畳くらいの狭い一部屋を挟んで繋がっているのだ。
それが何を意味するのかというと……。
「あっ、そっちは行っちゃダメっ……!」
「ん……?」
「あっ……!?」
がちゃりと三畳の部屋を開けたとたん、そこには僕の写真で壁が満たされていたのだ。




