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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第11章 落花流水
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第85話 聖印

 ライラ様と会う日。

 正式な面会なので聖女院でおしろいをしてから行くことになった。

 エルーちゃんが「親として会うのですからお洒落しないといけませんね!」と言っていたけど、何かにつけてお洒落させたがるというか……。

 僕を着飾るのが楽しいみたいだ。


「とてもお似合いでございます」

「……」


 相変わらず喜んでいいのか分からない感想をいただき、白いドレスに身を包む。




 クロース辺境伯領は辺境伯の名の通りここからは遠い辺境にある。

 だから聖女が足を運ぶより、向こうが来るべきだろうという考えのようで、聖女院に来て貰うことになっていた。


 ライラ様は辺境から通っているのではなく、平日は学園近くで家を借りて寝泊まりし、休日に辺境伯領へと帰るそうだ。

 なのでライラ様自身は遠くはないのだが、流石に聖女に会うのにおしろいをしていかないのは失礼にあたるらしく実家から馬車で来ていた。


「遠路はるばるようこそ、ライラ()()


 学園ではいつもライラ様だから、呼び方には細心の注意を払っておかないとね……。


 この間まで勘違いしていたんだけど、どうやら僕の年齢は全世界公開されていたわけではなく、聖女院で働いている人に公開されているだけのようだ。

 エルーちゃんが同い年と知っていたのはそのせいだ。


 しかも聖女が学生なら基本的に聖女学園の生徒になるのがお決まりなので、大聖女ソラは成人している扱いらしい。

 こんな低身長で成人しているなんて、ほぼ詐欺のようなものだ。


 ……これから大きくなるもん……。




「お初にお目にかかります、大聖女さま。私はアナベラ学園長の姪、ライラと申します」


 カーテシーを行うライラ様は僕とは正反対の黒いドレスに身を包み、そしてなんと()()()()()()()()()


「ええと……眼鏡は?」

「……私が眼鏡をしていることをご存じなのですね」


 ……しまった!?

 あまりの衝撃的な出来事と新鮮さに、思わず聞いてしまった。


「で、弟子からよくライラさんのことは聞いていたのです。それとライラさんとは、一度お会いしておりますよね?その時に……」

「ああその節は申し訳ございませんでした。初対面があのような出会いとなってしまいまして……」

「い、いえ。私も挨拶していませんでしたから、お互い様ですよ」

「眼鏡もはずしたほうが印象が良いかと思いまして。只でさえ私の第一印象は悪かったですから……」

「無理にはずす必要はありませんよ。それに、ライラさんの眼鏡、とてもお似合いだと思いますし……」

「左様でございますか。では……」


 そう言うと鞄から眼鏡を取り出してスチャッとかける。

 眼鏡を外すと大和撫子という印象があり、眼鏡をかけている姿に慣れているからか少しどきまぎしてしまった。


 今まではサクラさん達と一緒にお茶会をしていたから、僕一人となると途端に勝手が分からなくなる。

 準備から案内まで、完全に執事さんにおまかせ状態だ。


「学園では、いつもシエラがお世話になっております。何かご迷惑をおかけしてはいませんか?」

「いえとんでもございません。私こそ、シエラ副会長には助けていただいておりますから」


 慣れない世間話をしながら、執事さんに付いていき応接間に着く。


「ここが聖女院の応接間……とても豪華ですね」

「私も初めて来ました……」


「そうなのですか?」

「ええ。恥ずかしながら今までサクラさんに付いていっていただけでして……。ですから、一対一でこうして応接間でお話をするのも初めてで。作法とかはあまり分かりませんので、気になさらなくて結構ですよ」

「ありがとうございます」


 僕が先に座ると、ライラ様も「失礼します」と言って座る。




「最近はシェリーのことも気にかけてくださっているようで、ありがとうございます」

「シェリー……ああ、シェリルのことですね。なるほど、養子になったとシェリルから伺いましたが、仲がよろしいのですね」

「少し親馬鹿なだけかもしれませんけどね……」

「シェリルとは、むしろこれからお世話になるパートナーとして見ておりますから」

「……というと?」


 そう言うと、ライラ様はおもむろに鞄から書類を取り出した。


「これは……」

「私とシェリルの出資契約書です」


 出資……契約書?


「シェリルは将来小説家としてたいそう名を上げることでしょう。私はそのおこぼれをいただきたいのです」


「確かにシェリーの脚本は私も見て素晴らしいとは感じましたが、ライラさんから見ても良いと?」

「ええ。私の人生をかけてもいいと思っています!」


 自信満々に答えるライラ様。


「そこまでですか……俄然作品が読みたくなってきましたね……」

「シェリルは、ソラ様に読ませていないのですか?」

「私を題材にしたとは聞きましたが、恥ずかしいからと読ませてもらえませんでした……。どういった話なのですか?」

「それはですね!」


 突如くいっと眼鏡を上げて立ち上がるライラ様。

 ど、どうしたの!?


「大聖女様に恋した神様と、主様の恋愛を邪魔したくないが自然と大聖女様の魅力に落ちてしまう大天使様。そして学園でいじめられていたところを救われたことから、お弟子さんもまた大聖女様に恋心を抱いてしまう――禁断の恋心とハプニングの嵐。そして大聖女様の思わせ振りな発言から、お弟子さんがついに告白してしまうところから物語は始まります!」


 (ソラ)×(シエラ)って最早訳が分からないよ……。

 それに、なんかライラ様急に早口になってなんだか興奮してない……?


「……失礼しました。本の事になるとつい……」


 僕がビックリしていると、眼鏡をくいっとしながら謝ってくる。

 学園長が言ってたのはこれか……。


「いえ……。学園長が『似ている』と言っていたことに納得しました。」

「叔母共々、お恥ずかしい限りです」

「いえ、熱中できることがあることは良いことですから……」


 本の事で興奮するくらいなら、誰にも迷惑をかけないし、可愛らしい趣味だとおもう。

 学園長は迷惑かけるしなぁ……。




「決めました。その契約書に聖印を捺させてください」

「!?」


 聖女の拇印である聖印は虹色に光輝く。

 聖印を捺すことで、聖女が認めた書類という証となる。


 僕はメイドさんからペンを借りると、契約書に「もし出資が足りなくなった場合はソラが全額出資する」と追記した。


 そして僕が指に魔力を込め聖印を捺すと、捺したところから書類もろとも七色に輝いた。


「よろしいのですか?」

「ふふ、私の親馬鹿っぷりをなめてもらっては困りますよ……」


 聖印を捺した契約書をライラ様に返す。


「ありがとうございます。私も、シェリルに対してはそのつもりですよ」

「ふふ、ふふふふふ……」

「ふふふ……」


 なんだか悪代官の闇取引のようだなどと思いながら、僕は少しだけライラ様と仲良くなれたことを喜ぶのだった。

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