第845話 正体
「ここから先は馬車で移動できません」
自分で言っておいてなんだけど、今の僕NPCみあったな……。
「幻影の森は魔物が出るのか?」
「出ますけど、そんなに強く……むーっ!?」
涼花さんに口を塞がれる。
「なにふるんでふかっ!」
「君はもう少し自覚した方がいい……。それなりに強い敵が出るつもりでいた方がいい」
対策が分かっていればそんなに強くない敵なのに……。
「それに私達は戦力に含めない方がいい」
「分かってるよ。あくまでも案内役、だろ?」
「ええ……あ、ちょうど出ましたね」
「「……?」」
にょきにょきと黒い影が地面から発生したところをまるでリスポーンキルをするかのように手に持ったナイフを投げて突き刺していく。
計3箇所、自分達を中心として正三角形を築くように出現するのはこちらでも変わらないみたいだ。
最早脊髄反射の手癖がナイフを投げる場所を自動化させてしまっていた。
場所さえ分かれば一撃な闇属性の魔物など、僕たちの敵ではない。
シャドウ・ストーカーは本来は囲んで来れば厄介な魔物だけれど、囲ませなければいいのだ。
「この影の魔物はこうやって倒せば大丈夫ですよ」
「お前、本当にCランクか……?」
「えっ、急にどうしたのですか?この敵はたまたま効果的な倒しかたを知っていただけですよ……?」
別に僕、まだ変なことしていない筈なんだけどな……。
「えと、その……普通、Cランクの魔法使いが物理戦闘もCランク並に出来るなんて、それじゃあBランクに昇格してもおかしくないと言われると思います……」
「あっ……」
綺麗に調整しようとして、逆に不自然な現象を起こしてしまっていたらしい。
涼花さんが頭を抱えていた。
「あ……ええと、ほら!次は右ですよっ!」
まぁ上のランクに進める技術力はあっても敢えて前のランクに踏みとどまっているような人たちもたまにいる。
その理由は様々で、普通に次のランクの魔物を倒せるビジョンがまだ浮かばず、余裕をもって倒せるようになるまでレベルや能力を上げる道を選んだり、趣味のついでに冒険者になったから失効しなければランクは何になっていても気にしていなかったりがよくあるパターンだ。
Cランクとしてのランク調整は多少失敗したものの、ニャンダカードを見せていたお陰で貴族の娯楽としての冒険者という立場を理解してくれやすくはなったみたいだ。
娯楽として納得するルートがまだある以上、これ以上余計な口は挟むまい。
「着きました」
「まさかこんなに早く着くとは……!?」
「これが幻の花……!?」
「綺麗……!」
ものの一時間でたどり着いたその場所は、暗い森に虹色に輝く花が分かりやすくゴールであることを指し示していた。
ルートは覚えゲーなので、帰り道を覚えて貰えばそれで十分だろう。
「到達したというのに案外嬉しくなさそうですね、スモモさん」
僕はお目当ての幻の花を前にそこまで喜んだ顔をしていないスモモさんに違和感を覚え近付いていた。
「エンジェルちゃん。そんなわけないでしょ。永年追い求めてきたものが見つかったのよ?びっくりしていたのよ、当然でしょう?」
獣人はどの種族も比較的短命。
二十年も待っていたなら普通良い歳を召している見た目でないとおかしいのに、リス獣人のスモモさんは若かった。
「それともいちからきちんと説明した方がよろしいですか?麒麟」




