第843話 詐称
「それは別途卸していただきたいですが、定期的に手に入るのであれば我々も稼ぎとしてルートを知っておきたいと思っております。もし行かれるのでしたら、依頼主の他にも冒険者を同伴しても構いませんか?」
「構いませんが、そうなると騒ぎにならないように変装した方がいいかもしれませんね」
「ですがシエラ様のお名前だと変装する意味はないのでは?」
「でも、仕方ないでしょう?パーティー編成する際に結局ランクと名前を明かさないといけませんし、偽名はまだしもランクの詐称をするのはギルド的に許容できないでしょうから」
今でもESSランクとかいう意味不明のランク持ちつつSランクって言い張ってるけど、それはESランクより上はあまり意味がないただの名誉ランクであって、ギルド上での扱いも丁重になるだけでほぼ変わらない。
だからSランク以下の詐称は許されないだろう。
「いえ、そもそも聖女様が法なのですから、そこに違法は存在しませんよ」
「え、ええ……?せめて冒険者ギルドは中立な立場でいてくださいよ」
邪道を聖女に唆さないでよ。
「中立なんて、聖女様の前では通用しないじゃないですか……」
それもそうか。
いや、エリス様は僕たちに権限を与えすぎなんだよ。
「普通はできないですけれど、各ランクの肩書をお持ちになってはいかがですか?」
「闇取引の誘いみたいなのやめてくださいよ……」
でも確かに今その提案はありがたい話だった。
たまには羽目を外せる肩書が欲しいとは常々思っていたから。
「それで、お名前はいかがなさいますか?」
「――Cランク、エンジェルです。よろしくお願いしますね!」
「…………」
涼花さん、震えてないで早く自己紹介してよ。
「エンジェルちゃんの姉、リョウだ。姉妹共々よろしく頼む」
天は安直かもしれないけど、涼なんて何も変わってないからね。
魔道具で髪色と髪型を変えてはいるものの、こんな引き締まった身体なんて冒険者でも珍しすぎて、バレないか心配だよ。
というかどさくさに紛れてランクを明かさないでいるけど、この身なりでCランクと信じ込ませるのは無理がないかな?
「オイオイ、ギルマス推薦だって聞いたが、本当にこんなヤツらで大丈夫か?」
「ええと、私達は幻影の森に迷い混んでしまいましたが、たまたま出口を見つけたんです。ですから戦闘面でサポートになるはわかりませんが、案内はできると思います!」
演技とはいえ、もじもじとする姿を婚約者に見られるのは恥ずかしくて仕方ない。
でも事前に僕たちは戦力に含めないでと遠回しに言うためには必要な行為だ。
戦闘を見せたら疑われること間違いなしだからね……。
「ホントだろーな……?ま、いいや。アタイは獣人剣士のマーレ。こいつは盾役のクラスク。そして魔法使いの結衣花」
「僕とユイカちゃんがBランク、マーレさんがAランクなんだ」
「よ、よろしくお願いしますぅ……」
前衛二人に魔法使い一人、パーティーバランスは良さそうだ。
ただマーレさん以外は気弱なのがちょっと気になるけど、それは今の僕たちがいえる立場ではないか。
「依頼主のスモモ、A級薬師をやっているわ。本日は宜しくお願いするわよ」
リス獣人だと聞いていたけれど、涼花さん顔負けのナイスバディなお姉さんだ。
何故かこの人達相手に、僕はうまく騙し通せるのだろうか?




