第842話 幻薬
「その依頼、ルシアさんが今でっちあげた訳じゃないですよね?」
「随分とルシア王女に都合のいいように感じるが……」
「勝手に曲解して勝手に敵視しないでくださいよ。十年前くらいから来ていた依頼なのですよ。いえ、二十年前だったかも……」
10年単位とかアバウトすぎでしょ。
ハイエルフの時間感覚どうなってんの?
「失礼します」
女性職員がトレーを持って人数分の紅茶を置くと、その後僕の目の前にクッキーの入った籠を置いた。
「?」
その後僕のことを見つめると、ポケットに入っていたと思われる飴を僕に渡して、頭を撫でてから退出していった。
「もしかして私、女児だと思われてます……?」
「ぷっ…………聖女児……」
変な造語作らないでよ。
「お召しあがりにならないのですか?」
「…………おいしい」
小食だからかもしれないけど、よく皆から子リスみたいだって言われるんだよね。
「ルシア王女、シエラ君にお菓子を与えないでくれないか?間食を増やしすぎると夕餉が入らなくなる」
「涼花さんは私のお母さんですか……」
「シエラ君の身体のためなら喜んで嫌われものになるよ」
「目の前でいちゃつかないでくださいよ」
別にいちゃついてはいないよ。
今の、どうみても親子の会話でしょう。
「それで、依頼者はどんな人なんですか?」
「リス獣人の薬師よ」
「ああ、もしかして幻の花狙いですか?」
「ご名答」
幻影の森到達地にしか咲かないと言われている幻の花。
咲いている状態で摘んだものを煎じて薬にすれば、飲むだけで経験値を稼がなくてもレベルを上げる薬になると言われている。
「ええと、つかぬことをお伺いしますが」
「えっ……なんですか、急に改まって?」
僕が敬語で下手に出たのを気持ち悪がるようにルシアさんはちょっと引いていた。
「『幻の薬』と『咲いた幻の花』、それぞれ999個ずつ持っていてもてあましているのですが、必要なら今、お渡しいたしましょうか?」
「な゛っ…………!?」
全アイテムコンプ癖の弊害がここに……。
いやまぁ持っていることはむしろいいことなんだけどさ。
レベルのあがる『幻の薬』は入手できれば貴族に超高値で売れるらしい。
僕としてはレベルくらい魔物倒して効率よく最大まで上げればいいじゃんと思ってしまうが、どうやら僕の考え方はこの世界では異常らしい。
カンストするのが稀なこの世界でレベルを1上げられるアイテムは貴重で、とくに貴族はあまり魔物を倒すという習慣がないので、わざわざ倒しに迷宮に潜る時間もないのでお金を払ってでもレベルを上げるアイテムを求めるのだそうだ。
レベルをカンストした僕にとっては一生使う予定のないものなので、あげていいのならいくらでも渡せる。
「で、どうします……?」




