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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第11章 落花流水
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第84話 小説

 聖国ハインリヒへの帰国は何事もなく行われた。

 そして長旅で疲れた僕らにはありがたい休日が待っていた。


 久しぶりの朱雀寮での寝起きを済ませ下に向かうと、いつも通りの休日朝食メンバーがいた。

 といっても主にエレノア様が起きてこないだけで他の人は皆いるんだけどね……。


「こうして皆揃うのも久しぶりね!一年生の子達がいないと、この寮はエレノアちゃんとミアちゃんと私だけになるから寂しかったわ」


 寮母のフローリアさんがそう言う。


「今年の遠征は色々あったみたいね……。それにソラ様、本当にありがとう!」

「えっ?」


 何かしたっけ?


「とぼけないでくださいよ……。魔王を倒してくださったじゃないですか……」

「あ、ああ……その事ですか」

「その事って……世界を救ったのに……」


 何百と倒してきた相手に今更達成感も何もない。

 それに、半分以上はサクラさんとシルヴィアさんが削ってくれていたみたいだから、僕はいいとこ取りしただけだ。


「私は、皆様が無事ならそれでいいんです」

「ふふ、ほんと、大聖女さまは無欲だよね」


 そんなことないと思うけど……。


「そうだ、お土産買ったので渡しますね」


「嘘っ!これ、欲しかった部屋着!ありがとう!」


 一年生のみんながお土産プレゼントをしていると、『惰眠』Tシャツ姿のエレノア様が降りてきた。


「おはようございます、エレノア様。エレノア様には、こちらです」


 エレノア様に渡したのは『堕落』と書かれたTシャツだ。

 まさかセイクラッドのブランドものだとは思わなかったよ……。


「おお、『JUKUGO』の新作じゃないか!ありがとう!」


 欲しいかどうかすら分からなかったけど、ウキウキで受け取ってくれるのなら買った甲斐があったかな……。




 部屋に戻って、今日は何をしようかと考えていると、コンコンと戸を叩く音が聞こえてきた。


「どうぞ」

「失礼します、お義母様……」


 シェリーが入ってくる。


「シェリー、どうかしたの?」

「あのこれ、私とセフィーから……」


 あれ?向こうで見た質の良い部屋着だったような……。


「二人で出しあって買ったんです」

「も、もう……!自分のために使いなさいって言ったのに……」

「私達のためです!……日頃の感謝を形にしたくて……」


 怒るべきかもしれないけど、それだけ僕のことを思ってくれたということが嬉しくてつい笑みが出てしまっていた。


「それであの……相談というかお願いがありまして……」

「なあに?改まって……」

「実は、私……小説を書きたいと思っておりまして……」

「しょ、小説!?」

「脚本を書いたときに、ライラ様から凄く評価をいただいきまして……」


 確かにあの脚本は、とても良かった。


「でも、どうして小説に?」

「ライラ様に『貴女は小説のほうが合っている』とお墨付きをいただいたんです。それでその題材なのですが、またお義母様をモチーフに書かせていただけないかと……」


 ま、また僕なの!?


「ど、どうして私なの……?」

「ええと……あまり深い理由はなくて恐縮なのですが、お義母様をモチーフに書くと、筆が乗るんです。あとはライラ様に原稿を見せたところ、大層お気に召してくださったんです」


 えっ……もう原稿があるの!?


「……なるほど。参考までに、どんなお話なの?」

「え、ええと……」


 急に歯切れの悪くなるシェリー。


「その……恋愛小説……です……」

「れ、恋愛……小説……」


 僕の恋愛小説……?

 僕自信が恋愛とは何ぞやって感じなんだけど、大丈夫なのかな……?


「きちんと『ソラ様』ではなく『大聖女さま』と伏せますし、お義母様を貶めるような内容にはいたしませんから……」


 まあ伏せているならいいか……。


「べ、べつに構わないけれど……」

「いいのですか!?」

「はい。シェリーなら信用できるし、何より前に進もうとするシェリーは応援したいから」

「お義母様……」


「原稿は、読んでもいいのかな?」

「いえ……本人に読んでいただくのは恥ずかしいです……」

「ならやめておこうか。もし書籍化したら読もうかな……」


「あの、実はもう書籍化が決まっているんです……」

「え、ええええっ!?」


 なんで!?どうして!?


「そういえば、ライラ様とお会いする約束はございませんでしたか?」

「あ、そういえば来てた……」


 聖女院から正式な手紙が来ていたことを忘れていた。


「確か、明日会うことになってた……」

「ではちょうどよかったですね。そのお話はライラ様から直接お願いしたいとのことでしたので……」


 ライラ様が絡んでいるのか……。

 まあでもあの人なら信用できるし、聞いてみよう。


「分かりました。それは明日聞くことにしましょう……。でも、前に進むシェリーの姿を見れて良かったです」

「お義母様……」




 シェリーが部屋を去った後、嬉しそうな歓声が聞こえてきた。

 僕はそれを背景音楽にしながら、明日のライラ様とのお茶会のことを考えていた。


 ……あれ……?

 良く考えたら「大聖女さま」って伏せているけど、大聖女さまって一人しかいないじゃんっ!?


 今更気付いてしまった真実に了承してしまった手前、今更直してとも言えず悶々とするのであった。

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