閑話226 推部屋
【柊凛視点】
「リン様、何をなさっているのです?」
「何って……見ての通り、ただの推し活部屋だけど……」
前世では貧しくて到底そんなこと出来なかったが、今は飾るだけの額縁もいくらでも買えてしまう。
いつかお金に余裕が出来たときに推し活しようと拗らせてきた私にとって、聖女という立場は渡りに船だった。
「推し活部屋とは?」
何ということか、そもそもこの世界には「推し活」という単語がないらしい。
私は過激派ではないけれど、知らないなんてそんなの人生損していると思う。
「というか、どうしてエルーちゃんがここにいるの?」
「私は本日はお暇をいただいておりますので……」
そう言ってふとももを少し擦り合わせて我慢するエルーちゃん。
そういえばさっき「今日はアレの日だ」って言われていたっけか。
今度はエリちゃんとも姉妹になってしまうのか……。
「本日はおつとめもございませんものね……」
「私達も代わりに手伝った方がいい?」
「いえ……光栄ではございますが、今しても……その、逆に疼いてしまいますので……」
天先輩もとっても罪な男の子だ。
天先輩あんなに世のお姉さまに誑かされそうなショタみがあるのに、あんなに大きいの……持ってるし、とっても上手だし、それでいて私達を天先輩がいないと生きていけないくらいに骨抜きにしてくる。
その上甘えたときには限界までありとあらゆる母性をくすぐってくるから本当に質が悪い。
心を病んだのは彼の意図的なものではなかったにしろ、彼の最愛のエルーちゃんを沼に引きずり下ろしたのだから、サキュバスみたいなものだ。
もはや何かしらのフェロモンでも放っていないと納得できない。
「こちらは?」
「この間サイン描いてくれたときにくれたサインと、使用済みペン」
「え……?」
「使用済みペンは本人に見せられないから飾らない方がいいと私からも忠告致しましたのに……」
「どうせ本人になんて見せないから。こっちはこの間もらったぬいぐるみ。こうやって思い出とともに飾っていくの」
「なるほど、思い出の品というわけですね」
「まるで宗教的な壺を売っているかのようですね」
そういえば、日本人の推し活って広義で言えば宗教のひとつだ。
生きる活力であり、道具に毎日お祈りや挨拶するし、やってることは偶像崇拝だ。
「こちらは?」
「あっ、ダメっ……!?」
「あっ……」
暖簾分けされた奥にあったのは、空色のしましまぱんつ。
ブラもセットで、大事な大事な推し活アイテムだ。
そう、暖簾を分けたこちらは成人向けコーナー。
「ソラ様がなくしていたとおっしゃっておりましたが、こちらにあったのですね」
「リン様、窃盗では?」
「う……だって、はじめての時の思い出だったから……」
「なるほど、でもこれは面白いですね」
そして何故か推し活部屋は婚約者の間で流行り、空前の推し活部屋ブームが訪れるのだが、それはまた別の話――




