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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第838話 代償

「教えられないって、どうしてですか?」

「ソラ君、あなたは()()でしか考えていないみたいだけれど、あなたは聖女特有の死にかたがあることを頭の片隅に置いておくべきよ」


 エリス様が僕の膝から起き上がって僕の両頬を包むように両手を添える。

 僕がその手の甲の上にやさしく両手を重ねると、エリス様は何故か手を離そうとしてきたので、僕が手を掴んだまま離さないでおいた。


「精神的な負荷によって起こる聖女特有の魔力暴走による燃え尽き死のことを考えろと?」


 歴史的事実からすると隠されたことだが、歴代聖女のうち魔力暴走で死んだ聖女は数多くいるらしい。

 サクラさんも神薬を使用しなければ暴走していたらしいし、歴代最強の魔法使いと唱われている一ノ瀬(うらら)さんも魔王に負けるはずもなかったのに、専属メイドのメイリスさんが魔王にやられたことで感情が溢れてしまって、魔力暴走に繋がってしまった。

 暴走は魔王を余裕で倒せるほどの圧倒的な力が出るものの、命を燃やすまで身体中の魔力を消費し続ける状態だ。

 僕も一回起こしたが、もしかすると心がとても弱くなったのはその代償かもしれないと今更ながら思い至った。

 暴走は心の傷に繋がり、それは神薬でさえ治せない不治の病なのかもしれない。


「今の私には未来を見通す力はないけれど、たとえあなたが凄く強くても、感情の暴走で命を失うこともあるのよ」


 僕は添えられた手を離さずに、ぷくりと怒る素振りをした。

 その仕草が刺さったのか顔を染めていたけれど、僕は気にせず以前から気になっていた疑問をぶつけてみることにした。


「エリス様は、何をそんなに恐れているのですか?」

「あなたを失うことよ」

「そうじゃなくて。そうなるであろう邪神の、何にそんなに怯えているんですか?」


 正直エリス様がこれほど邪神を恐れている理由がわからなかった。

 何万年と前にお互いに戦いあった宿敵であるというだけの関係ならば、ここまで過敏になるのには少し違和感がある。


「もしかして、今のエリス様に未来を見通す力がなくなったことに関係ありますか?」

「……こういう時は本当に勘がいいんだから」


 どうやら図星だったらしく、頬を染めても顔をそらさなかった彼女が少し目をそらしていた。


「以前も力がなくなったって言ってましたよね。数万年前の戦争の時に、敵を南の奥地に退けた代償に、エリス様は何を失ったのですか?」


 病人を逃げられないように追い詰める趣味はないけれど、そうでもしないとエリス様は答えてくれなさそうだった。


「観念するわ。奪われたのはね、私の体。神体よ」

「えっ……?」

「私はね、元々現人女神(あらひとめがみ)だったの」


 エリス様から告げられたそれは、僕の予想を遥かに上回ることだった。

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