第836話 分体
致しているにしては明らかにおかしいその姿に、僕は最悪のパターンを想定していた。
神が消滅するなんて前例にないことは聞いたことがないけれど、今のエリス様はそうなってしまいそうになるほどか細く感じた。
「エリス様っ、大丈夫ですかっ!?」
「え、ええ……一週間くらいしたら落ち着いてくるから、気にしないで……」
「全然大丈夫じゃないじゃないですか……。どうしてこんなになるまで相談してくれなかったんですか?」
横になるエリス様に膝枕をして撫でる。
神力をもたない僕が今なんの力にもならないことはわかっていたけれど、僕も婚約者として影で支えるくらいのことはしたい。
そう、僕がエルーちゃんや涼花さん、そして婚約者の皆に助けられたように、ただそばにいるだけで心の支えになりたかった。
「はぁ、推しのふとももが気持ちいい……」
「……それで、こうなったからには説明していただけるんですよね?」
「ソラ君……というか聖女の根幹に関わる話だから、一生隠していたかったんだけどもね」
「そんなこと言ってる場合ですか。いい加減観念してくださいよ」
か細い物言いに、余程弱っていたのだと痛感する。
「ソラ君、じゃあ聖女はどういう仕組みで最上級魔法を使えるようになっているか、知っているかしら?」
「それは、普通の人より安全弁がないようにエリス様が私たち聖女のからだの構造を調整してくださったからですよね?」
ゲームの中の知識からは少なくとも出てこない。
そもそもエリス様という存在がゲームに存在しなかったからね。
「そうなんだけれど、それは結果だけのお話よね?」
「結果だけ、ですか?」
「そうよ。安全弁がないように調節したのは確かだけど、どうやって聖女から安全弁をなくしたか、その手段は分かるかしら?」
待って、今話したい内容から回り道しすぎているような気がするけど、今までのヒントからすると……。
「もしかして、私たち聖女を作るのに神力を消耗している……!?」
「神力ならまた信仰心を増やせば貯まるから問題ないのよ。実際はもうちょっと重くてね。その……神霊体をちぎってちょっと混ぜることで、私の一部として機能するから一部権限を私がいなくても使えるようになるのよ」
神霊体は実体があるわけではなく、器のないエリス様の魂のようなもの。
だからそれをちぎって僕たち聖女の魂の一部に組み込むことで、無線通信で例えるなら中継機のような役割で最上級魔法を実現できるようにしているらしい。
以前神体を僕たち転移者である聖女の魂を入れておく器にしてしまうと魂が耐えられずに破裂してしまうと言われたが、どうやら神霊体を魂に混ぜる分には問題がないらしい。
「でもその代償としてエリス様の魂、つまり私たち人間で言うところの『体』が引き裂かれていくんですよね?」
それの意味するところは、エリス様の不調の原因は僕たち聖女が生き残っているせいということになる。




