閑話224 人工物
【嶺肇視点】
翌日の休日、俺は実家で何もせず縁側でぼーっとしていた。
一時期は新居のローンも払いながら四人を養うことで頭がいっぱいになっていたが、今はどちらも必要なくなってしまった。
購入した家は既にローンは返済していたが、色々と思い出してしまうので、売り払うことにした。
家族の思い出を全て忘れてしまうに等しい行為には申し訳なく思うが、俺には毎日のように家庭崩壊を思い出してしまうあの家でまともに暮らしていく自信がなかった。
今は実家で独り暮らし。
母親と姪も行方不明になり、いつの間にか弟夫婦も居なくなり、実家の相続は俺になってしまっていた。
途中で天が稼ぐようになってからは俺の稼ぎもはした金だったかもしれないが、それでも家族も身内もいなくなった今の俺にとっては使いきれず溜まっていく一方だった。
葬儀もほとんど呼ぶべき家族がおらず、せめてもの償いとばかりに墓を豪華なものにしたものの、それでも有り余るお金に俺はやるせない気持ちになっていた。
二世帯用の家をたった一人で使うには、だだっ広すぎる。
和室の母の部屋を通りすぎると、縁側が見える。
縁側には誰もいないが、今にも家族の声が聞こえてきそうに感じる。
「そういや、天も母さんにべったりだったな……」
縁側で本を読む母のところに天が後ろからやってきて抱きつき、読めるわけでもない難しい本を後ろから眺めていたのを思い出す。
母も邪険にはせず、孫には結構甘かったのを覚えている。
「……静かすぎる」
聞く相手もおらず、独り言が多くなる。
ストレスでも溜まっているんだろうか?
だが俺にはこれ以上溜めるべきストレスももう残っていなかったはずだった。
もう失うものは全て失ったのだから。
はぁとため息をつき、冷蔵庫から缶ビールを取り出して開ける。
家庭が崩壊してから立ち直れたのは仕事仲間に誘われた飲み会のお陰だが、それからというもの俺は孤独の寂しさも何もかもを酒に頼るようになった。
寂しさも苦しさも喉越しがすべてを忘れさせてくれるようだった。
あまりいい酒の飲み方ではないと分かってはいるが、それでも死ぬよりはマシだ。
だが酔いすぎることは出来なくなった。
三缶目に入ろうとすると、勝手にその手が止まってしまうからだ。
酔うと天を傷付けてしまったあの時の出来事がフラッシュバックしてしまうからだ。
「はぁ……」
何度目か分からぬため息をついたとき、古いタイプのインターホンが鳴る。
「んだよ、勧誘なら余所を当たってくれ」
折角解消しかけていたストレスが油を注がれたように再燃して、苛立ちが増す。
ふて腐れつつも戸を開けると、そこには想定外の出来事が固まっていた。
「酒くっさ……!ちょっと、アンタ独り身だからって、こんな真っ昼間から飲んでんじゃないわよ」
「は…………?」
「まあいいわ、とりあえず中に入れなさい。話はそれからよ、ハジメ」
まるで人工物のように感じてしまうほどの白髪の美人がそこに立っていた。




