第830話 植替
「庭園にやってきました。あ、凛ちゃん。ごきげんよう」
「天先輩!」
振り返る凛ちゃんの表情が軟らかくなるのが見てとれた。
「日課のお散歩?」
「はい。お花を見てました。天先輩は?」
「セインター使い始めたから、聖女院の皆さんを撮って投稿してたの」
「なるほど、ハ○撮り……」
「凛ちゃん……?」
最近婚約者の皆がそういう変なことを言うのを抑えなくなってきたの、ちょっと怖いんだよな。
身内や恋人同士での会話でならいいけど、そうじゃない時に変なこと言うのは心臓に悪いからやめて欲しい。
こっちの人が通用しない言葉で良かったよ。
そうじゃなかったら普通に放送事故で撮り直しだよ。
「東子ちゃんもごきげんよう」
「はい、ソラ様。ごきげんよう。あの、私なんかが写り込むのは……」
「いいからいいから。ええと、皆さんご存じかもしれないけど、102代聖女で私の婚約者の柊凛ちゃんと、その専属メイドさんの東子ちゃんです!」
「あらためてそう言われると、恥ずかしいです……」
ハ○撮りとか口走ってる人が何言ってんだ。
「そろそろパンジーの季節かな?」
「天先輩が私との会話を覚えてる……!」
別に凛ちゃんの言ったこと、忘れたことないよ。
「凛ちゃんが教えてくれたことでしょう?」
あんなことまでした仲なのに、まだ『そらいろ』のファンだったときのことが抜けていないらしい。
僕としては最後の出会いがで止まってしまっているので、そこが凛ちゃんとの違いなのかもしれない。
東子ちゃんもまだ僕とエルーちゃんに遠慮しがちだし、もう少し僕の方から歩み寄るべきなのかな?
「来週に魔法で植え替えを行うそうです」
「リン様が聖獣ドリアード様をお呼びすることになるそうですよ」
「ん?今まではどうしてたの?毎回リアを呼んでるわけじゃないんだよね?」
もしそうなら、植え替えの度に聖獣を呼び出す聖女が必要になってしまう。
今みたいに聖女が存命ならいいけれど、一人もいないときにそれでは困るだろう。
「ドリアード様でなくとも、土魔法で簡単に植え替えはできます。ですが土や植物のお声が聞こえるドリアード様の方が、より正確だということのようですね」
「じゃあ普段は土魔法使いの方々で植え替え作業を行うんだね」
「そうなります」
「天先輩、戦闘用ですらない初歩の魔法は忘れてるんですね……」
「あのソラ様ですからね」
「ごめんってば……!」
「流石魔王を瞬殺した戦闘狂……」
だから僕のことなんだと思ってんだって……。




