第824話 隠逸
「いやに嫌そうな声だけど、大丈夫かな?」
「うっ……ゆっ、有言実行っ!」
僕がステラちゃんに頼るのは、単に心を病んで他人に頼ることを皆から強要されたからだけではない。
「多くの人を助けられる聖女様のようになりたい」
ステラちゃんが僕と会う前から望んでいたその夢を叶えるために、僕はただその舞台を用意してあげるだけだ。
「うんうん、えらいえらい」
「バカにしてるんですかっ!?」
「馬鹿にはしてないよ。妹扱いはしてるけど」
「子供扱いには変わりないじゃないですかっ!」
そうとも言う。
「――なるほどぉ、魔王四天王が隙を着いて攻めてくるとっ……」
「彼らは他の魔物達とは違って転移魔法で突然やって来るので、防衛ラインを築いていても内側から瓦解させてくるんです。ですから、ステラちゃんにはそこの防衛と疫病が広がるのを阻止して欲しいんです」
「でもっ、領域の境界線の防衛に出ているのにっ、狂戦士にまで気を配るのはちょっとぉ……」
ちょうど机に手を置く感覚で、引き寄せられるようにステラちゃんの頭を撫でてしまった。
でも僕は悪くない。
当の本人からは「そんなこと言ってない」と駄々をこねられるだろうけど、僕には「慰めて」と訴えかけているようにしか見えなかったんだもの。
決して僕が撫でたかったからじゃないからね。
「だから狂戦士の動向管理はアヴリルさんに任せて大丈夫です。ステラちゃんのお仕事は、境界線地帯の防衛をして、アヴリルさんに通信魔道具で呼ばれたら一緒に狂戦士の討伐をする。ね、簡単でしょう?」
「そっ、それならまぁ、なんとかぁっ……」
「狂戦士なんて無理」とか言わなくなったのも、ステラちゃんがきちんと鍛えてきた証拠だろう。
「確かに南の国は毎回四天王・狂戦士に困らせられてきた。今回はそれをアヴリル姫とステラ殿が共闘して殲滅していただけると?」
「ええ……って、アヴリルさんが姫様だってこと、もう周知の事実なんですね」
現王家だから旧王家のことを知っているのは当たり前かもしれないけど、そういうのっていざというときのために隠すものだと思っていたよ。
「聖女院の……それもソラ様のお手つきとなるのですから、我が国としてもお預けして宜しいか、成り立ちから家族構成まで洗いざらい調べられるのですよ」
アクア王妃が突然ぶっ込んできた。
え、なにそれ怖い。
「うふふ、他の国でもそうなのですから、今更ですよ」
歴代聖女の皆さん、この世界に揚げパンとかラーメンとかを広めるよりもっと前にさ、プライバシーという概念をもっと広めた方がいいと思う。
うふふと言いながら無表情なのはアクア王妃が精霊族で単に表情が見えづらいだけなのか、はたまたこの人が無慈悲なだけなのか。
ひとまずステラちゃんの同意は得られたので、よしとしよう。




