第819話 尊厳
背後から抱きつくように僕の胸にパッドとブラをつけていたメルヴィナさんは、どさくさに紛れてなのかたまたまなのか分からないが、そのマシュマロのように柔らかくて豊満な胸を押し付けられてしまった。
「まぁ、ある意味たまたまでは御座いますね」
「ぐすっ、ひどいよ……心まで読んでぇ……!」
こんなしょうもないことに天使の力を使わないでほしい。
「今からソラ様に女の子のお気持ちを教えて差し上げますね」
「ひゃぁ、なにす……ぃゃんっ」
エルーちゃんの謎の合図をすると、メルヴィナさんが僕につけた虚乳をそのブラごと揉んできたのだ。
それが僕の虚乳が揉まれているからなのか、はたまた先程から背中に押し付けられている柔らかい感触のせいなのか、それを考えるだけの脳が、身体も頭も蕩けてしまっていた僕にはなかった。
「んっんっ、な、何して……」
僕は男なんだからその行為自体には何も感じないはずなのに、ゆさゆさと一定間隔で胸を揉まれる感覚に、段々と自分の中で違和感が芽生えてくる。
「イ、イケナイ気持ちになって参りますから、そ、そんな発情した女子のようなお声をあげないでくださいませっ!」
そんなこと言うんなら、まずその手をどけてよ!
「んっ、んんっ、メルヴィナおねぇちゃん、やめて、おねがい……!」
「お、おねだりなさっても、駄目なものは駄目ですっ!」
身体も口調もふにゃふにゃになりながらも助けを求めるようにメルヴィナさん本人に命乞いをするも、頑なにエルーちゃんの意思に従うメルヴィナさん。
いつもえっちな言動は見え隠れするも僕のお願いだけは叶え続けてくれていたお姉ちゃんが、はじめて意地悪を続けてきた。
「んぁぁっ……っ!?」
そして僕がまずいと思い、なんとか動かせる子ヤギの足のように震える右手で、パジャマのズボンの上から下半身を押さえつけるようにした。
しかしそれを見越したかのようにエルーちゃんが僕の弱々しい右手をどけて、そのままパジャマの下まで脱がしてきたのだ。
「まぁっ……!?」
「凄いことに……なっておりますね♥️」
「やだぁぁ……見ないでぇぇ……」
僕の隠そうとした全てを暴かれ、全ての尊厳を失って、情けなさの極みを二人の前に晒している。
もはやあられもない姿になってしまっている僕を見て、紅潮した顔で満足そうにする二人。
「ぐすっ、すんっ、なんでぇ、こんなことすぅのぉ……!」
ついに我慢していた涙も溢れてきて、もうこれ以上の恥はもうなかった。
「なんと可愛らし……!」
「ごめんなさい、ソラ様。ですが、途中から私は耳責めをしていなかったのをご存じですか?」
「ぐすっ、それが、なんだっていうの……?」
確かに途中から胸に集中していて気づかなかったけれど、エルーちゃんの耳舐めはいつの間にかなくなっていた。
「つまり、ソラ様がこんなになってしまわれたのは、ソラ様がメルヴィナ様によって興奮なされたからでございます」
「はぁっ、はぁ、それはみとめるけど……わらしが、せっそうなしだって、そういわせたかったの?」
「いいえ。これは交換条件です」
「こうかん、じょーけん?」
もはや凄いことになっているエルーちゃんの薄ピンクのパンツ越しに二人の白い手袋が優しく握るように触れながら、僕の両耳に息を吹き掛ける。
「さぁ、ソラ様。その熱を冷ましたければ……」
「私と……いえ私達と、気持ちいいことをしましょう?」
トドメとばかりに吐息の込もった声で両耳を耳打ちされてしまえば、もう取り返しのつかないほどに気持ちが怒張してしまっていた。
ああ、あたまがぐるぐるして、バカになる……。
もうエルーちゃんが見ているし、我慢しなくていいのかな?
というか僕、どうしてさっきまで我慢してたんだっけ……?
その答えは次の日起きるまで分からなかったけど、最愛のエルーちゃんが見ていることを免罪符にして、僕は流されるままに溺れていったのだった――




