第818話 杞憂
この場でまさか責められるとは思ってなかったので、頭の中がはてなで満たされ、首をかしげたまま固まってしまった。
「……どういうこと?」
「ソラ様、せっかく私が恥を忍んで上下揃えてお渡ししたのですから、きちんと着てくださらないと!」
そんな、給食のおばちゃんの「栄養バランスを考えているんだから好き嫌いなく残さず食べなさい」じゃないんだから。
というか恥を忍んでるのは僕の方でしょうが。
「まさか、エルーちゃんはついに私に自分の下着を着せて興奮するまでに……」
「なっておりませんからね?あっ、んっ、でも……そ、想像させないでください!」
もじもじしてるし、本当に興奮してるじゃないの。
というか一人称「私」になってるし、これ深層心理では女装してる認識なんだね、僕って。
また知らなくていい知識が増えたよ、エルーちゃんのせいで。
「決してパンツに収まりきらないソラ様のソラ様がもっこりしている姿を想像して、興奮しているわけでは……!!」
「私、泣いていい……?」
なんで妄想で僕が辱しめられてるのさ。
「い、いいからほら、私のブラを返してください!」
僕はエルーちゃんの薄ピンクのブラジャーをアイテムボックスから取り出して返すと、受け取ったエルーちゃんはそのままメルヴィナさんに手渡ししたのだ。
「そもそも、私じゃあCカップのブラなんてつけられないでしょ……って、エルーちゃん?何してるのかな?」
「でしたら、『つけられるように』したら、つけてくださるのですよね?」
「いや、それは暴論……って、まさか……!?」
「ソラ様、御覚悟を」
エルーちゃんが僕の背後をとり、急にがっしりと羽交い締めにして僕の身動きを取れなくする。
「エルーちゃ、何して……」
「はむっ」
「ひぃゃぁっっっっ!?」
僕の左耳の端を唇で軽くつまむようにエルーちゃんが耳に触れてきた。
「んちゅっ、れろっ……」
「んひぃぃぃぃっっっ!?」
そのまま追撃を挟むかのように僕の耳の穴を塞ぐようにキスをすると、そのまま耳の穴を突くように舌で舐めてきたのだ。
まるで本物のASMRのような感覚に、僕はいつも以上に腰が砕けて膝を突いてその場に女の子座りをした。
「ソラ様がいけないのですよ?それほどまでに女の子らしくあらせられるのに、ブラをつけていらっしゃらないのですから。私はいつも杞憂しておりました。いつかソラ様のお胸の形が崩れてしまわれるのではないかと……!」
何の杞憂だよ……。
「男なんだから、形が崩れる以前に、そのものがないんだってばぁっ!」
エルーちゃんが本格的に横を向くと、耳舐めに全力を注ぐ姿勢になった。
耳の穴を舐め回すぐちゅぐちゅといった音が脳にまで響き渡るような感覚に、下半身が反応してしまわないようにするのに必死でいると、ついに無防備な僕の背後にメルヴィナさんの白い手袋をした手が僕の胸に伸びてゆく。
そして舐めるのを辞めずにエルーちゃんは僕の上半身だけを器用に脱がしていく。
「はぁ、はぁっ、今っ、わたくしが、ソラ様を真の女の子にして差し上げますからねっ……!」
「や、やめてぇぇぇ!」
命乞いも虚しく、僕はパッドごとエルーちゃんのブラをつけることになってしまった。




