閑話219 価値観
【セレーナ・シュライヒ視点】
「奥様、嬉しそうでございますね」
リリエラちゃんやマリエラちゃんが家族になるという実感が湧いてきて、とてもうきうきしているのがメルヴィナには筒抜けね。
「ええ、落ち着いたら三人でお買い物とか行きたいわね。マリエラちゃんのセンスはアレだから、私が二人のお洋服を選んであげたいわ。そうだ、ソラ君も連れていきたいわ!そうね、西の国の視察と称して付いていくのはどうかしら?確か今年はリン様が行幸のお務めだから、ソラ君も付いていくわよね?」
「そう気軽に遠出しては、また旦那様の胃が荒れますよ」
「私はそんなおおらかなマークを愛していますもの」
メルヴィナに身体を清めてもらい、湯船に向かうと先客が踞っていたの。
「どうしたの?ため息ついて」
「セレーナ様……」
それからまもなくマリエラちゃんもやって来て、リリエラちゃんのお話を聞く流れになったわ。
「じ、実は……ソラに三年間、性別を隠されていたんです」
「リリエラちゃんは、それが許せないの?」
「違います!そうではなく……朱雀寮の皆さんはご存知だったのに、私には一言も相談してもらえなかったのですよ」
「あらあら」
「嫉妬深いと嫌われるわよ?」
「それ、マリエラちゃんが言うのかしら?」
「お母様、いつもお父様がどこにいるか知らないと心配になっていますわよね?」
「わ、私のことはいいのよ。今はリリエラの話でしょう?」
都合が悪くなると棚にあげるのは相変わらずで可愛いわね。
「そんな、嫉妬深いわけでは……。確かに親友だと言い出したのは私の方からでしたけれど、彼からしたら私の言ったことは重荷だったのでしょうか?」
「リリエラちゃんはソラ君の自称……親友だから言うけれど……」
「ぷっ」
「自称ではありませんわっ!失礼なこと言わないでくださいましっ!」
叩けばよく鳴る鐘、やっぱり親子ね。
「茶化してごめんなさい。でも、これはソラ君の大事な話だから。あの子は何年間も人前で女装しているプロフェッショナルだけれど、でも何故彼はあんなにも可愛いのに女装することに対して消極的で、自分の女装姿が気持ち悪いと考えているのか、知っているかしら?」
ただ素で女装しただけで、学園にいる誰一人として女装を疑わないほどの美少女っぷりを持っている男の子。
その生涯は家族に、そして歪ませられ産み出された、間違った価値観に支配されている。
「まさか、エリス様のご命令で?」
「違うわ。確かにこの世界で聖女として女装させて聖女学園に通わせたのはエリス様ではあるけれど。聖女様の世界で彼は男であることを捨てさせられたのよ。女性らしさを強要され、ひとたび間違えれば、殴る蹴る、刃物で首や背中を傷つけられることもあったそうよ」
「っ……」
「そうやって女装のプロとしてお金を稼ぐまでになったけれど、そのお金は一滴たりともソラ君に還元されなかった。そうして家族からお金を稼ぐ道具扱いされていた彼は、その名声から当時の学校でも嫉妬をされていたのよ。あの子は一銭も持っていないのに、人気になったことが祟って、いじめられるようになったのよ」
「やっぱり、まだ隠し事してるじゃないの……」
水中に顔の半分を埋めてぶくぶくと呟くリリエラちゃんは、聞いたことを少し後悔しているようだった。




