第814話 失言
「あっ……」
「あ……」
「…………」
「…………」
僕と凛ちゃんが同郷であり、同じ中学校であることは凛ちゃんが来た辺りに刊行された聖女院から出されているインタビュー雑誌にもよく書かれている。
だからこの世界でも周知の事実なわけだ。
だからこそ凛ちゃんが僕の性別を間違えるはずはなく、逆に裏付けとなってしまっていたのだ。
沈黙が訪れたものの僕には弁明の余地が全くといっていいほどなく、固まってしまっていた。
そして婚約者や周りの人もこの状況をどうすることもできずにいて、一瞬にして場の空気はしんとしてしまった。
「ソラ様、まだ説明してなかったの?」
マヤ様からそんなことを言われて、僕は説明できないこの状況を問い詰められているように感じ、やがてそのストレスが溢れてしまった。
一筋の涙がやがてたらりたらりと雨の始まりの如く強く溢れ出していくと、周りの婚約者達も焦りだしたようだ。
「ちょっ!?何しているんですか、マヤ様!」
「ソラ様の精神面に負荷をかけるのはお止めくださいと、あれほど言ったではありませんか!」
「悪いことは悪いでしょう?今回は自業自得よ。聖女院に招いてから一年も経っているのだから、いくらでも説明する機会はあったはずよ」
「リリエラ、可哀想」
「確かに、ご自身のことですからいつものように後回しになさっていたツケが回ってきただけかもしれませんが、今のソラ様はお心を病まれていらっしゃるのですから、お手柔らかにお願いいたします!」
何も言えない僕に対して、婚約者からは見事なフルボッコだった。
一見エルーちゃん達が僕を擁護してくれていているように見えるけど、遠回しに一番抉りとるような返しがついたフックを引っかけられていた。
「ぐすっ……だってぇ、ぜったい、ぐすっ……きらわれるもぉん……」
僕が男だってこと、彼女には一番知られたくなかった。
この世界に来て初めて親友だと言ってくれた存在に嘘をつき続け得たことでその地位も全て、女同士ではなく男女になるだけで下心があるというものにまで成り下がってしまうからだ。
ロット君や聖女祭で我が校にやってきた男子達のように聖女学園の淑女目当てで行動する男の子と同じような扱いをされてしまうと思っていた。
「リリエラ様、お義母様はとても悩まれていらしたのです。そのお気持ちを汲んでくださいませんか?」
「もう、急にこんなこと聞かされて困っているのは私の方なのよ?」
それは、ごもっともだ。
こんなの全部僕が悪くて、婚約者に守られてみっともなくて、自分の言葉で説明できなくて情けない、ろくでなし野郎だ。
「やっぱり馬鹿ね、あなた……」
「うぅっ、ぐすっ、ごめんなさいぃっ……!」
嫌悪感を微塵も抱かず、何度も謝る僕に花柄のハンカチで僕の涙をぬぐってくれるリリエラさん。
人間ができているというのは、リリエラさんのことを言うのだと思う。
「私達の友情がそれくらいで揺らぐと思っているの?全く、もうちょっと信用できないものかしら?」
「ぐすっ、リリエラさぁん……」
「あのねソラ?私は前にも言ったわよね?もう、男の子が泣かないの。そんなだから女の子って言われるのよ」
「うわぁぁん、リリエラざぁぁぁん!」
呼び捨てがトリガーだったことだけは認識していたけれど、それ以降の記憶は定かではない。
最後には、僕はリリエラさんにしがみついて泣き崩れていた。




