第812話 赤子
マクラレン侯爵家はルークさんとリリエラさんが婚約したことで家族として招かれた。
一応ダリル侯爵とマークお義父さんは因縁があるようだけれど、僕がルークさんとリリエラさんの仲を公認したことで両家の仲も段々と良好になっていた。
本来聖女院に所属になると家紋を捨て出家のような扱いになるけれど、聖女が増えてきて人員も多く必要になってきてから、そういったしがらみをなくそうとする福利厚生改革などをお願いして貰っている。
具体的には名字を捨てずそのままにしたり、聖寮院のワープ陣を経由してどの国へも定期的に帰省できるようになどだ。
これにより辺境や他国の貴族家や市民からも面接の応募が増えているようで、世界中から優秀な人材が沢山集まってきてくれているらしい。
その分倍率もすごいことになっているけれど、聖女院の倍率なんて今さらの話だ。
「ベリル、ソラ様にご挨拶なさい」
「ぶぁーぶ」
「わぁ、お手々小さい!可愛い!」
マクラレン家の長男、ベリル君は焦点の合っているのか分からない目と手を僕に向けて伸ばしてくれた。
僕はその手に合わせて軽くハイタッチしようと思ったとき、リリエラさんがベリル君の身を引いて抱き寄せていた。
「いくらソラ様だからって、ベリルは渡しませんからね!」
「もう既に過保護過ぎません……?甘やかしすぎると教育に良くないですよ」
「ソラちゃんより好物件はこの世に存在しないのだがな……」
いや、指摘すべきはそこじゃないでしょ、涼花さん。
そもそもベリル君も僕も男だからね?
「だぁ」
「ふふ、良い子ね。ベリルは私と生涯を共にするんですから、婚約者なんて要りませんわ」
うーん、清々しいほどのブラコンだ。
「そうしていると、どちらかというと親子みたいですね」
「何よ……あなただってマリエッタ先生を手篭めにしている癖に……」
マリちゃん先生は僕の子供じゃなくて婚約者だよ……。
「とはいえ、私達も早くお子が欲しいですね、ルーク」
「リリエラ……」
「わ、私はまだ認めておらんからな!?」
「お父様、往生際が悪いですわよっ!」
「もう、ソラ様の御前でみっともないことしないでくださいませ」
ダリル侯爵とマリエラ夫人が大人達でしていた会話が終わったらしく、こちらへきていた。
「マクラレン家は賑やかだなぁ」
「あなたももうその一員ですわよ?」
「お子が欲しい」という言葉にエルーちゃんが反応したのかぎゅっと握りしめていた手が少し強まったのを感じて、僕は家族団欒の中、遠回しに婚約者の本当の望みが透けて見えてしまっているのを強く意識させられてしまっていた。




