第80話 激昂
「エリス様、場所はっ!?」
<ハインリヒ王城の庭園よ……>
僕はエリス様の話を聞くなり、体が動いていた。
「王への報告は任せます!」
こうでも言っておかないと、アレンさんは付いてきたがるだろう。
流石に他人をかばいながら魔王と闘うのは難しい。
迷宮入り口の裏手に置いていたワープ陣から聖女院の僕の部屋に飛ぶ。
そのまま走りながら『大聖霊の大杖』を取り出し、詠唱を始める。
『――光を抱く崇高なる神龍よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
そのまま窓ガラスを割り窓から飛び出すと、空中で詠唱を続ける。
『――降臨せよ 教皇龍――』
そのまま飛び降りる僕の下にハープちゃんを召喚して飛び乗る。
「ハープちゃん、急いで!!」
ハインリヒの外は雨が降っていた。
エリス様が泣いているのかな?
こうなることは読めていた。
だからあのとき無理やり神薬を押し付けた。
けど、実際に起こるとこんなに不安になるとは……。
聖墓でサクラさんに聞いた葵さんの話が頭をよぎる。
あんなことは繰り返させるものか……!
雨がざあざあと降るようになった時、僕は王城にたどり着いた。
王城の門の上を通りすぎた瞬間、ダークベノムの発生を確認した。
こんな時に王城から門までの遠さを痛感するとは……。
広くした王城設計者に文句を言いたくなった。
「ハープちゃん、全力であそこに突っ込んで!」
この世界に来てからハープちゃんの使い方が荒くなった気がする。
あとで謝っておこう……。
地面に不時着する直前に飛び降り、急いでサクラさんのもとへ駆け寄ると、悲惨なことになっていた。
「なに……これ……」
最早ベノムの毒なのか血の池なのかすらもわからない。
かろうじてうずくまっているのがサクラさんだと分かるが、正直事前に知らないと誰かもわからなかった。
すぐさまアイテムボックスから赤色の液体である神薬を開け、サクラさんに振り撒く。
なくなった腕や身体が再生し、ベノムの毒もなくなる。
良かった、生きている証だ。
本当に間に合って、良かった……。
僕は身体強化してサクラさんを抱え天庭へ。
「ソラ君!」
天庭の雲みたいなソファにサクラさんを寝かせる。
「無事です」
「良かった……」
「サクラさんを頼みます」
「ソラ君っ!」
天庭からすぐに戻り、今度はシルヴィアさんのところへ。
「シルヴィアさん!大丈夫ですか?」
毒を食らっただけでなく爆発も受けたはずだけど、シュウウと煙を上げたところが再生されていき、もうほぼ完治していた。
これがエリス様の力のようだ。
「わ、私は大丈夫です……それより、魔王をっ……!」
その言葉に、僕は魔王を視野に収める。
ハープちゃんが牽制してくれていたみたいだ。
魔王は仕事を終えたとばかりに漆黒の沼に戻ると、逃げようとしていた。
その姿を見て僕はついに怒りを抑えられなくなった。
「聖槍ロンギヌス」を取り出して光属性を最大付与し、沼の移動を先読みして投擲する。
「僕から逃げられると思うなよ……」
痛みに「グオォ……」と沼から飛び出すのに合わせてロンギヌスを拾い直す。
魔王は抵抗するように鎌攻撃を行う。
「お前の攻撃なんか全て分かってるんだよ……」
遅延がかった鎌攻撃をリフレクトバリアでジャストで二倍にして跳ね返す。
鎌攻撃が9パターンあることも、その予備動作で9パターンの見分けが出来ることも分かってる。
僕が何百回倒したと思ってるんだ。
よろける魔王に上から踏み倒し、組伏せてロンギヌスを胸に刺す。
「モード・ドリフター」と唱えるとロンギヌスがまるでドリルのように変化し、魔王の身体を抉る。
「グオオオオォォォォ!!」
けたたましい咆哮をあげる魔王。
身体を突き抜けたタイミングで僕は魔王から離れると、魔王はダークベノムを放った。
「ナメられたもんだ……」
ダークベノムのクールタイムが一分あることも知っているし、発生タイミングも分かる。
僕は魔王ごと球体のリフレクトバリアで包み込み、タイミングを合わせて二倍にして返す。
「自分の毒にやられて逝きなさい!」
毎秒500ダメージを受けていれば、流石に耐えられない。
「オオオオォォォォ…………」
魔王は数秒もがき苦しんだ後、灰となって消えた。
ドロップ品の紫色の石である『魔王石』を確認してアイテムボックスに入れる。
「旦那様……ありがとう……ございます……」
「仇は取りましたよ。おっと……」
安心したのかふらっと倒れるシルヴィアさんを支える。
「よく頑張りましたね」
身体を張ってくれたシルヴィアさんに感謝をしつつ、身体強化で抱えあげる。
「だ、旦那様……」
普段のようにわたわたする体力も残っておらず、シルヴィアさんは完全に借りてきた猫状態だ。
ダークベノムを直撃したのに平然と回復してるんだから、神様の力はすごいよね。
「では、天庭に戻りましょうか」




