第809話 参拝
「人いっぱいだね」
「ソラ様の一度の放出量よりは少ないですね」
「なんの話してんの……」
一回に数億とか出るらしいから、それと比べるのはおかしい……って、変な話させないでよ全く。
御詣りを終えて参道を歩いていると、このザビアー神社に押し寄せる沢山の参拝客に驚く。
元日を避け、結構朝早く来たつもりだけれど、それでもこれだけの人々が居るのには理由がある。
第93代聖女、ゼノン・ザビアーさんの血縁者であるエルフ種のザビアー家が神主や巫女さんをしているこの神社は、予てより「聖女の友人であるエリス様が時々覗きにくる」かもしれないというどこからか広まった都市伝説のようなものがあり、民の皆さんはそれを信じて何か神頼みやお祈りに来るときは真っ先にここに足を運ぶそうだ。
もちろん聖女院の裏手にある聖女院が管理している神社もあるけれど、あそこは山の上で参拝しに来るのにも一苦労だからユーザー層も老若男女とはいかないし、それにセキュリティもしっかりしているから妙な行動できないし、その分敷地に入るにも民からするとちょっとお高いくらいのお金も取られるので、ある程度懐に余裕がある人じゃないと来れない所だ。
でも聖女院の経営しているという事実もあり、時々イベント行事で僕たち聖女がいることも多いので、多少なりともお金がかかっても訪れるお客さんは多いらしい。
それと比べるとザビアー家の神社は基本フリー解放されているし、アクセスもしやすく庶民のみかたのような神社だ。
「『慈愛の聖女』様!」
「ご機嫌麗しゅうございます」
「ごきげんよう、皆さん」
「きゃあ!可愛らしいお声!」
「ご婚約おめでとうございます!」
「本日はご婚約者様とお参りでございますか?」
「あちゃぁ……集まってきちゃった……」
流石に聖女、顔が世界中に割れている僕は素の姿でお忍びなど到底無理なのかもしれない。
「こらこら、ソラ様も私的なご事情でお越しになられているのですから、私達がお邪魔してはなりませんよ」
「はぁい、神主様」
「テオさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、ソラ様。再び当社にご用命くださり誠にありがとうございます。ついでに我が愚女もいただいて貰えると幸いでございますが……」
「いや、流石にピアさんとは年が離れている気が……」
どうして親御さん達は皆本人の同意なく娘さんを僕に薦めてくるの……?
「長寿のエルフ種にとって、数十年の差など蝉の寿命程度のものでございます」
「ちょっ、ちょっとパパ!恥ずかしいこと言わないで!もう、ごめんね、ソラ様……変なこと言って」
否定しないってことは、ピアさんも年齢的には問題ないの……?
エルフの価値観、よく分からないな……。




