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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話217 記念日

【エルーシア視点】

「ぐぁっ、おと……さ……」

「ソラ様っ!?お気を確かに!!」

「動かしては駄目です!東子ちゃん、先生(ドクター)を呼んできてください!」

「は、はいっ!」


 覚悟ができていない東子ちゃんにはこれ以上残酷なところは見せられません。

 アイテム袋から魔水晶を取り出してソラ様に触れさせるも、HP(体力)がみるみると減っていっているのが分かりました。

 エリス様、どうかお力をお貸しくださいませ……!


「おかあさ……ぐるし……」

「天先輩、ダメっ、起きて!」

「リン様、ヒールを!」

「わ、分かった!エクストラヒール!」

「涼花様、一緒にソラ様の首を!」

「分かった!」

「ん……騒がしい」

「ソーニャ君、ソラ様が……」

「おねぇちゃ……やめ……」

「くっ、力が強すぎる……!身体強化でもびくともしないなんて……」

「!」


 ソーニャさんもすぐに獣化して大猫の姿になると、押さえつけている手に噛みついて離そうとしてくださいます。


「くび……締め……ないで……!」

『フシャアッ!』

「え、ナニナニ!?どうなってんの!?」

「アヴリル様、何しても構いませんので、ソラ様を起こしてください!」

「んー、じゃ、かぷ!」


 アヴリル様が血を吸っても一向に起きることはなく、逆効果なのか、体力が減っていく一方でした。

 ソラ様の体力の数値が刻一刻と下がっていくのを見ると、段々と血の気が引けていきます。

 このままでは医師の先生が来て点滴をする前にソラ様がお隠れになられてしまうと悟った私は、急いでアイテム袋からソラ様から以前にいただいていた神薬を取り出しました。


「だっ……め……」

「いけません!」


 ソラ様からは私たちのために使えと仰って渡してくださったものですが、使うなら今しかないと思い至りました。


「やめ…………てっ…………!」


 瓶の蓋を取りソラ様に浴びせるようにその赤い液体をかけると、一瞬のうちに瀕死だった体力がもとに戻りました。


 一命は取り留めましたが、まだ予断を許さない状況でした。

 ソラ様がお目覚めになり首を絞めるのをお止めにならない限り、この体力が減る状況は一向に良くなりません。


 エリス様にお祈りするようにソラ様の腕を握っていると、やがて願いは叶いました。


「ソラ様!」

「ソラちゃん!」

「っかはっ……!はぁ、はぁっ、はぁっ……」


 息を吹き返すソラ様を見て、ざわついていた私の心がやっと落ち着きを取り戻してきました。


「ぼく……またじぶんのくび、しめてたの?」

「「……」」


 何も変わらないいつものソラ様の寝起き姿を拝すると、安堵の気持ちがやがて現実味を帯びてきて、感情となって溢れてきました。


「天先輩っ!」

「凛ちゃん、どうしたの?」

「ぐすっ、天先輩……死ぬところだったんですよっ!」

「ソラ様の体力がみるみる減っていて、リン様でも追い付かず……ぐすっ、神薬を一つ消費しても、お目覚めになるまで危ない状況だったんですよ」

「……私より、先に逝くなんて、許さないから……」


 そのお手がまだ温かみを持っていることに、涙が止まりませんでした。

 私達が泣いていたことに何かお心を痛めたのか、ソラ様から美しい涙がぽたりぽたりと垂れてきたのです。


「ごめん……みんな……ぐすっ、ごめん、ごめんね……!」

「ソラ様……!」


 ですが、私はソラ様が可愛らしく怯えて震えているそのさまを見て、やっとその感情が死への恐怖であると気づいたのです。


「ぐすっ、うぁ……生きてて……よかったよぉ……」


 本日は、ソラ様が初めて現世に留まりたいと切望なさった記念日。

 その日、私たちはドクターがいらっしゃるまで、皆さんで沢山ソラ様を抱き締めて泣いておりました。

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