第799話 氾濫
「『『……理由はわかった』』」
「……!」
「『『だが、エルーに言った事を二度言わせるな。足手まといは必要ない』』」
「っ、来ます!」
「『『――雷光の交わりよ、交差する祝福よ、今我与えし祝福が全てを貫く双槍となれ――』』」
「次が来る前に、攻撃を!」
『――!』
もう遅い。
「『『――クロス・ライトニング!!――』』」
再び全体を包み込む光の柱と鳴り止まぬ警告音が響き渡るも、エルーちゃん達のブザーはまだ鳴っていなかった。
この短期間で全員カンストにするのも難しいのに、このステータスの僕たちの全力の魔法を二回も耐えるとは、想定外だった。
「『『……まさか、二回目も耐えるとは。何をした?』』」
「フシャア!」
「高圧水切断線!」
エルーちゃんがすぐにソーニャさんに乗って反撃をしてくる。
ビーム系統の魔法は出も早く、無詠唱なら意表を突くにはもってこいだ。
だから僕もディバインレーザーを重宝していた。
ウォータージェット・カッターは発生の早いビーム系統の冷気魔法。
水の高圧力は様々なものを切断するという、僕の前世の知識から着想を得たのだろう。
……本当に、エルーちゃんは僕を驚かせてくれる存在だ。
不意を突くにはもってこいだけど、流石にそれくらいでやられる僕ではない。
「『『ライジングレーザー』』」
「「!?」」
それは雷と光の上級合成魔法のレーザーで、ディバインレーザーの完全上位互換。
それを羽根の数……1000発も煩雑に発動すれば、どんな人だろうと消し炭になる。
やはり魔力を自由に使えるのなら、詠唱で一発毎にしか放てない最上級魔法より、上級魔法を連発する方が強い。
いわば僕の、『クロス・ライトニング』の次の奥の手だった。
ビィーーーー
その瞬間は、呆気なく来た。
司令塔のエルーちゃんと皆の力が合わさり、気を抜いていたら負けていた試合ではある。
だけど僕はこの戦いに圧倒して勝たなければならなかったし、たとえ勝ったとしても、勝ちにかまけている場合でもなかった。
<「『『――会場にいる皆に告げる――』』」>
拡声魔法で会場にいる皆に声を届ける。
ここから僕は、民の皆さんを一人でも多く護るために立ち回らなければならない。
僕がどれだけ人々の注意を引き付け、そしてどれだけ敵の強大さの印象を与えるかで、助かる命があることを信じて動く。
<「『『――魔王を倒し、世界は平和になったと思っている輩が多いようだが、それは真逆だ。今この世界は、何万年もの負債を抱えている――』』」>
でも、不思議と緊張はしなかった。
他人を演じることは僕にとって得意なものであり、それに今はこの身体に取り込んでいる二柱の魂を身体が、僕は一人ではないと教えてくれるから。
<「『『――貴様らは不思議に思わなかったか?どうして魔王は何度倒しても魔水晶がドロップしても復活するのか?どうして毎回復活すると結界の張ってある聖国の聖女院の近くに転移してくるのか?――』』」>
問いかけ、考えさせる。
ここにいるのは、それを考え民を守る側である貴族や将来要職に就く人達だから。
<「『『――もし魔王が転移魔法を使えるのなら、何故戦闘中に使わないのか?そう、使えないからだ。ヤツには協力者がいる――』』」>
手を合わせ拝む人々に、僕はこれから世界で最も余計なことを言うつもりだ。
それは、一神教を悉く覆す、最低最悪の一手だ。
<「『『――魔王の復活と転移魔法の助力をしたもう一柱がいる。その名を『邪神』。いつか私達聖女を殺し国を滅ぼし尽くすため、邪神は魔王やリッチに時間稼ぎをさせ、およそ数万年もの間魔力を蓄え続けてきた。そしてそれが今、解き放たれようとしている。蓄えた魔力とともに強大な魔物が軍隊となって押し寄せる、大氾濫となってな――』』」>




