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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第795話 獣化

「『――流星の(シューティングスター)(・レイン)――』」


 天使の翼をはためかせ空中に舞い上がり、羽根から流星の雨を降らせていく。


「綺麗……」

「まさに天使のごとき瞬きだ……」

「だが、攻撃はえげつないな……」

「くぅっ……!」

「一旦下がってください!立て直しましょう!」


 エルーちゃんが流星の段幕の一部をリフレクトバリアで弾き返している間に、前衛のセフィーと神流ちゃんは後退する。


「エリアヒール!」

「ありがとう、リン様」

「助かりました!」

「作戦Bでいきますよ!」

「「了解!」」


 追い詰めたと思っていたが、すぐに切り返してくる。

 流石はエルーちゃん、この程度の想定はしてきていたようだ。


「『この程度でやられるようなら連れていくつもりはないからな……』」

「ツンデレも、おいたが過ぎると嫌われますよ」

「『嫌われても構わん。それで護れるものが護れるのならな』」

「そうですね。ソラ様ならそうお考えになられることでしょう……」


 問答の間も決して手を止めずに流星をひたすら弾き返してを繰り返している。

 お互いに集中が切れたらおしまいの攻防戦。


「『だったらどうする?』」

「形にして示すだけです」

「『やってみなさい』」

『――星の大盾(ルミナ・アイギス)!――』

「『……!』」


 いつの間にか詠唱を終えていた柊さんが大盾を召喚して防いできていた。

 なるほど、『七魔覚醒』をパーティーメンバーである柊さんにかけたお陰で、星の大盾(ルミナ・アイギス)の威力を三倍に上げて防御力を合わせてきたのか。

 どこまでがエルーちゃんの考えてきた作戦なのか、想像するだけでいかにエルーちゃんを敵に回すと末恐ろしいかを物語っている。

 自分で動くだけでなく手札を全て見て事前に作戦を練る。

 これではもう戦う軍師だ。


「作戦開始です!」

「『……!』」

「「――()()!」」

「『それは……!?』」


 その一言で神流ちゃんとソーニャさんが全長五メートルもの四足歩行の大狼と大猫に化けたのだ。


「なんだあれは!?」

「召喚魔法か!?」

「いや、それなら二人が消えたことはどう説明する?」

「もしかして、あれが伝説の『獣化』か……?」


 獣化。

 それは獣人種の人が一定のレベルと魔力数値を超えたときに覚えられる種族によるユニークスキル。

 単に魔力を消費して巨大化するだけではなく、更に素早さと攻撃力に磨きがかかる。

 その状態で何をしてくるのかと思ったら、大狼の神流ちゃんの上にセフィーと柊さんが乗り、大猫になったソーニャさんの上にエルーちゃんが乗ったのだ。


「『――煌めく白銀の星空よ、今我承りし祝福が悪逆非道を妨げる大楯となれ――』」

『遅い』

「『――星の大盾(ルミナ・アイギス)!――』」


 二匹とも獣化で倍になったうえ、セフィーの『七魔覚醒』で三倍の火力を出すことができる。


「『くっ……!?牙に闇属性と風属性を付与したのか……!』」


 あの攻撃特化ステータスである教皇龍(ハープ)ちゃんが放つ辺り一面を塵に変えてしまうリフレクション・フルバーストを余裕で凌ぐと言われているあの『星の大盾(ルミナ・アイギス)』を、神流ちゃんの牙が砕いたのだ。


『やりました!』

「ソラ様の最上級魔法を突破した……だと!?」

「「うおおおおっ!」」


 神流ちゃんの闇属性が付与された牙はお互いに光属性使いである僕とシルヴィにとっては弱点でもあり、光属性最上級防御魔法である『星の大盾(ルミナ・アイギス)』もまた、闇属性が弱点であった。


『ソラ様、お覚悟を!』

『ガウッ!!』

「『ぐっ……!?』」


 そのうえで柊さんが『星の大盾(ルミナ・アイギス)』で防いでいるうちはエルーちゃんの手が空く。

 その空いた手で最大の身体強化をソーニャさんに施し、風属性と水属性が混ざった氷の牙のような噛みつきが襲ってくる。

 二匹の大狼と大猫に右腕と左足を思い切り噛みつかれ、宙に浮いていた僕は地面に引きずり降ろされた。


 見事な連携、これこそ人間の可能性なのかもしれない。

 海龍以来の大ダメージを受けたものの、さすがにこれで終わる僕ではない。


「『――()()()()教皇龍(ハープスト・ドラゴン)――』」

「「!?」」

『ガウッ!?』

「「きゃあぁっ!?」」


 天使の翼の上に、さらに龍の翼が生え、頑丈な鱗で肌が満たされていく。

 最後に龍のいかつい角が生えてくると、まるでコスプレに失敗したかのような天使龍の姿の完成だ。


 いつしか鱗で牙は通らなくなっていた。

 手を振り払うその攻撃力の高さに身を任せ、二人の獣人を、乗っていた三人とともに弾き飛ばした。

 再生能力も上がり、瞬く間に体力は回復していく。


「『『流石だな。だがここからは私も本気で行かせてもらう、覚悟しろ――』』」


 まるで吠えるような重なった声が、聖女学園の地下訓練場中に響き渡っていた。

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