第793話 掃討
<こちらは大丈夫です。お義母様。シミュレート通りに進んでおります>
<咆哮は?>
<忍ちゃんが弾き返しました。あとは殲滅するだけです>
<助かったよ、報告ありがとう>
売店は騒ぎになっているかもしれないが、弾いてくれたということは少なくとも死者を出すことは避けられたらしい。
<セラフィー様、手出しは無用です。これは私が婚約者に相応しいかどうかの試験でございますから>
<それくらいで約束は違えないから、二人がかりで早く殲滅して!会場に魔法打ち込んできて、既に公平な試合じゃなくなっているから!>
<な……!?急ぎます!>
<ソラ様、私もサポートに向かいます>
<エルーちゃん、お願い!>
おそらくエーレ君は操られている。
でもおそらくエーレ君のレベルは100でリッチは90。
リッチにとってすれば、操るだけのレベルに足りていない。
そこがリッチにとって誤算だったはずなのだけれど、実際に何故かエーレ君は闇魔法で操られている。
「くっ……攻撃が急に重く……!?」
「な、なんだこれは!?」
「そうか!エーレ君自身じゃなくて、その武器を操っているのか!?」
木の剣という何の耐性もない武器を使って試合をしていることが逆に仇となったようだ。
思わずイザベラさんに「武器に気を付けて」とアドバイスしそうになったけれど、そんなことをしてしまえば反則負けになってしまう。
今は二人とも死なない領域にいるから問題ないけれど、『操られたエーレ君がもし場外にイザベラさんを追い込んで、そのまま殺してしまったら』という最悪のパターンを何度も想像してしまう。
「ソラ様、私も……」
「いや、三人を信じましょう。それより涼花さん、イザベラさんが危うくなったら割り込む準備をしますよ」
「そちらなら、大丈夫だろう。ソラ様も、もう少しクラスメイトを信頼したほうがいいよ」
「えっ……?」
涼花さんがそんなことを言った時、エーレ君の挙動がおかしくなったことを怪しんで避けているだけだったイザベラさんに変化が訪れた。
「っ!?」
エーレ君を操っているのは武器の方だと悟ったイザベラさんは自分の居たところの地面をぬかるみにして、向かってきたエーレ君を滑ってこけさせたのだ。
「正体を現したようですね!」
尻餅をついたエーレ君の手から闇を纏った剣が離れると、彼の剣はひとりでに宙を浮き
「私を、舐めないでください!」
付与魔法で木の槍に植物を生やすと、その蔓がどんどん伸びて闇の剣を飲み込んでいく。
「あんな技、いつの間に……」
「丁度一年前あたりかな?イザベラ君に頼まれたんだ。これはソラ様、君のために編み出した技さ」
「私の?」
「たとえ聖女といち貴族令嬢といえど、彼女は友人であることを諦めたわけじゃない。今年こそは君といい勝負がしたい。君に食らいつこうと躍起になっていた。ま、対戦は叶わなかったようだが」
「そっか……」
僕がクラスメイトの皆さんに対して友人のような関係を望んでいることを知りながら、彼女も彼女なりに歩み寄ってくれたのだろう。
少し不器用だけど、イザベラさんらしいとは思う。
<リッチ、討伐完了いたしました>
<魔水晶のドロップは?>
<確認済みです>
<ありがとう、お疲れ様>
安堵のため息を漏らすと同時に、ビィーーーーとブザーが鳴る。
表沙汰にはなっていないものの、仮にも学生だけでリッチを掃討したことになる。
皆、本当に強くなった。




