閑話213 歯応え
【イザベラ・フォークナー視点】
来る武術大会本戦。
<さて準決勝は聖女学園生粋の正統派槍使い、三年Sクラス、イザベラ・フォークナー!>
「イザベラ様!頑張ってええっ!」
声を上げる後輩たちに手を振る。
私も少しは人気になったようだ。
これもすべてはソラ様のおかげだろう。
<対するは、神樹国立学園、三年のドット!>
「ドット!やっちまえ!」
正直こんなトーナメントは、事実上の敗者復活戦のようなもの。
私もソラ様やエルーシア殿と戦いたかった。
<いまここに、戦いの火蓋が切って落とされました!>
「はぁっ!いくぜ、連撃!」
生徒全員が冒険者である南の国の名門学園、神樹国立学園。
その代表である獣人のドット殿だが、正直これがAランク冒険者であることに驚きを禁じ得ない。
動きも見えるし、何より攻撃が軽すぎる。
実践をしてきたという意味では我々も変わらない筈だが、やはり師の違いというのは大きいことがよく分かる。
夏明け前までエルーシア殿とソラ様の魔法なし武器なしの組み手を見たことがあるが、正直早すぎて何も見えなかった。
ステータスと身体強化だけであれだけの速度で組手を行えるなど、前代未聞だ。
だがあれこそが聖女様とその親衛隊に求められる『力』そのものなのだろう。
我々フォークナー伯爵家はフォークナー領の民達を護るだけでいいが、聖女様にとっては『全世界の民』が護るべき対象。
そして増えてきたとはいえ、聖女様は最後の砦。
もしお隠れになってしまえば、この世界は聖女様が維持してこられた平和が一瞬にしてなくなってしまう。
護るものの規模もその重さも違いすぎるため、求められる力の大きさも桁が違うのは当たり前だろう。
そしてソラ様はそれを有言実行なさるお方。
事実、民を護るために聖徒会長と学園講師をお辞めになられた。
聖徒会速報では「学園に通っていては時間が足りないから」であると公表されているが、それが民を育てるより御自身が強くなって一人で解決したほうが良いとのお考えなのか、はたまた我々聖女学園生が成長して個々人が成長する道を見つけたからもう学園生に教えることは何もないからなのか、どこまで未来を見据えておられるかは私達が拝察することは叶わない。
だがその選択をした意味は近いうちに分かる気がしている。
そう、この大会の翌日に行われる、ソラ様対リン様チームの聖女同士のデモンストレーション戦で、あるいは……。
「おい、すかしてんじゃ……」
「おっと、失礼。では、踏み込むよ」
「っ……!重っ……!」
両手剣の連撃は確かに強いが、そもそも短剣を使うのなら槍を真面目に受けているようじゃ駄目だ。
「両手が塞がってるよ」
上から振り下ろした突きを止めるために両手の剣で挟んだが、私はそれを見越して槍から手を離し、懐に入って鳩尾に蹴りをお見舞いした。
「うぐぅっっ……!?」
尻餅をついて後ろに倒れ込むドット殿に、私は再び掴んだ槍を鳩尾に追撃した。
ビィーーーー
<勝者、イザベラ・フォークナー!>
ソーニャ殿も神流殿もおらず、なんとも味気ない武術大会。
決勝は少しでも歯応えがあるといいが……。




