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好きな人には喜んでほしいのです。

 次の日、りょう先輩に誕生日プレゼントをあげて、お昼休みはパーティーをして盛り上がった。

 私はりょう先輩が好きな、映画のDVDをプレゼントした。


 何か残る物をあげたかった。

 だってそれを見る度に、私を思い出してほしかったから。

 そして、一緒に観られたらいいなぁと思いながら。


「今度の日曜日に、このDVDをみんなで観ようよ」


 りょう先輩が私の願いを知っているかのように、DVDを受け取るとすぐに言った。

 私は嬉し過ぎて、返事をするのを忘れていた。


「モエちゃん? もしかして、好きなジャンルじゃなかったかな?」


 りょう先輩は、ワンコのようにシュンとして私を見ている。


「そんなことはないですよ。大好きです」

「えっ」


 私の大好きの言葉に反応したのは、リョー先輩だった。


「だっ大好きっていうのは、DVDのことですよ?」

「それって本当なのか? DVDのことじゃなくて、DVDを観てる時に食べる、ポップコーンじゃないよな?」


 私が焦って言うと、リョー先輩が私をからかうように言ってきた。


「もう! リョー先輩じゃありませんから」

「なっ、何で俺がポップコーンが好きなのを知ってんだよ?」

「えっ、リョー先輩ってポップコーンが好きなんですか?」


「二人とも、漫才はもういいよ」


 りょう先輩が呆れ顔で言った。

 でも、何でいつもリョー先輩とは、漫才のようになっちゃうんだろう?


 どこか、ふざけるリョー先輩が悪いの。

 いつも、私を怒らせるリョー先輩が悪いの。

 そんな、リョー先輩に突っ掛かる私も悪いの。



 それから日曜日になり、学校で待ち合わせをして、りょう先輩の家へ行く。

 待ち合わせにはリョー先輩はいなかった。


 リョー先輩は少し遅れるみたい。

 りょう先輩と二人きりになるのは初めてで、緊張した。

 りょう先輩が会話を続けてくれるから、沈黙なんてなかったけど。


 りょう先輩は、ちっとも緊張をしていないようだった。

 私だけがこんなに緊張をしてバカみたい。

 リョー先輩がいなくても、いつも通りでいいのに。


 リョー先輩と二人きりの時は、緊張なんてしなかったのに。

 好きな人と二人きりの時は、やっぱり緊張をするみたい。


 りょう先輩の家へ着くと、りょう先輩の部屋へ入る。

 勉強机の上には、甘いお菓子がたくさん乗っている。


 勉強は何処でするのかな? と思った。

 受験生なのに大丈夫なのかな? とも思った。


 りょう先輩の部屋には、テレビの前に立派な二人掛けソファがあった。

 そこに二人で座り、DVDを観る。


「リョー先輩が来ていないのに、観てもいいんですか?」

「いいよ。あいつは、この映画に興味はないからね」

「それならどうして一緒に観るなんて、約束をしたんですか?」

「モエちゃんがいるからだよ」

「私ですか?」

「うん。モエちゃんを気に入っているからだよ」


 りょう先輩が言った言葉は、リョー先輩も言っていた言葉だった。

 二人とも私を、何だと思っているんだろう?


 私はお気に入りの女の子。

 これは喜んでいいの?

 お気に入りなら喜ぶべきなの?


「モエちゃん? 心配しないで。君は大切だから」

「えっ」

「お気に入りは大切だってことだよ?」

「大切ですか?」

「そうだよ。あっ、映画が始まるよ。最初が肝心だから、ちゃんと観なきゃね」


 それから私達は映画に夢中になった。

 ううん、違った。

 夢中になったのは私だけだった。


 りょう先輩は眠そうにしていた。

 何度も観ているから、内容は分かっているはず。

 何度も寝そうになっているりょう先輩を見ると、可愛くて笑ってしまう。


「りょう先輩。眠いようなら寝て下さい」


「いいの? それじゃあ遠慮なく」


 りょう先輩はそう言って、私の膝に頭を乗せた。


「膝枕で寝れるなんて、幸せだよ」


 りょう先輩は嬉しそうに笑って目を閉じた。

 そういう意味で言った訳じゃないのに。

 私は仕方なく膝枕をした。


 膝枕をすると身動きがとれない。

 りょう先輩はスヤスヤと眠っている。

 映画の内容なんて頭の中に入ってこない。


「そいつなら、一度寝たら起きないから、動いていいよ」


 私の頭の上からリョー先輩の声がした。

 私が見上げると、リョー先輩が呆れた顔で見ていた。


「でも、、」

「モエがそのままがいいならいいけど、キツイなら膝枕なんてしなくていいと思うけど?」

「そうですね」


 私はりょう先輩の頭を支えて、ソファから立ち上がる。

 りょう先輩は全く起きなかった。


「モエ、ここに座りな」


 リョー先輩がソファを背にして床に座る。

 そして隣に座れと床を叩いている。

 私はゆっくりと隣に座った。


「リョー先輩はこの映画は観ないんですよね?」

「そりゃあね、何度も観たら飽きるよ」

「りょう先輩に観せられた感じですね?」

「そう。恋愛映画なんて興味ないのにさ」

「それでも付き合うのは、りょう先輩が好きだからですよね?」

「いいや、俺は、男は好きにならないよ?」


 また、ふざけるリョー先輩。

 私は真剣に訊いているのに。


「リョー先輩はどうして、いつもふざけるんですか? どうして、いつも大事な所で本心を言わないんですか?」

「本心? 言ってるよ? 俺は男は好きにならないってね」

「リョー先輩。私はリョー先輩の本心が知りたいんです」

「それなら、りょうは俺のお気に入りって言えばいいのかよ?」

「お気に入りってどういう意味なんですか?」

「モエと同じだよ。面白いんだよ」

「面白い?」

「そう。俺のオモチャみたいだ。電源を入れると動きだすオモチャだよ」


 オモチャ?

 バカにしているの?

 私もりょう先輩も、心を持っている人間だよ?


 電源なんてないよ?

 リョー先輩と居ると楽しいから一緒にいるのに。

 ヒドイ。


「そんな言い方、りょう先輩に失礼よ!」


 私はリョー先輩にタメ口で言ってしまった。

 でも、りょう先輩の為にも、言いたかった。

 りょう先輩も傷つくはずだから。


 私はすぐに、りょう先輩の部屋を出た。

 あのままあの部屋にいたら、悔しくて泣いてしまいそうだったから。


 優しいはずのリョー先輩は、本当は優しくなかったの?

 あの優しさは嘘だったの?

 私もりょう先輩も騙されていたの?


◇◇


 あの日から先輩達と私の関係が変わった。


「モエちゃん」

「また来たんですか?」


 りょう先輩はあの日から、一人で私の教室に来るようになった。

 りょう先輩はあの日の出来事を知らない。


 だから毎日、私の所に来て、何があったのか訊いてくる。

 私もリョー先輩も何も言わない。

 だって、りょう先輩が知る必要はないから。


「いつになったら仲直りするの?」

「りょう先輩、私達はケンカなんてしていないですよ?」

「ケンカだよ。だから二人とも、後悔した顔をしているんだよ。謝れば済むのに」

「謝っても許しません」

「やっぱりケンカなんだね?」

「ケンカならまだ良いですよ、、、」


「モエちゃん?」


 りょう先輩は心配そうに、私を見て言った。

 こんな可愛いりょう先輩に、あんなヒドイことを言うなんて。


 絶対に許さないんだから。

 悪魔から天使を守らなきゃ。


「ねえ、モエちゃん。今日の放課後、僕に付き合ってくれる?」

「はい。いいですよ」


 りょう先輩ったら、どうしたんだろう?

 いつもは何も言わずに、私を連れ回すのになぁ?



 放課後になり、りょう先輩は目的地を言わずに、その目的地まで私を連れていく。

 りょう先輩の口数がいつもよりも少ない。


「りょう先輩? ここって、、、」


 目的地へ着くと、私は驚いた。

 だってここは、リョー先輩と一緒に来た場所。

 りょう先輩の誕生日プレゼントを買った、女の子に人気のお店だった。


「ここのお菓子が美味しかったから、また食べたくなったんだ」

「りょう先輩は本当に、甘い物が好きなんですね?」

「うん。だからあいつは毎年このお店で、沢山のお菓子を買って誕生日プレゼントとしてくれるんだ」

「毎年ですか?」

「うん。毎年だよ」

「リョー先輩が一人でですか?」

「一人はちょっと入りにくいよね? このお店に男子高校生が、一人で入るのは勇気がいるよ」

「そうですよね?」


 リョー先輩は誰と来るの?


「モエちゃん? あいつが誰と来るか気になる?」

「そっそんなことはないです。リョー先輩のことなんて気になりません」

「モエちゃん、バレバレだよ」


 りょう先輩はクスクスと笑った。

 私が気になるのは、リョー先輩と一緒に行きたいと思う人がいるのかってこと。


 そして本心を教えてくれないリョー先輩と、一緒に居たいと思う人がいるのかってことよ。

 嘘の優しさを見せるリョー先輩に、一緒に居たいと思ってくれる人はいるの?


「僕の妹だよ」

「えっ」

「あいつは、僕の妹と来るんだ。いつも妹にも何か買ってあげてるけど、一緒に行ったお礼だって言ってたよ」


 私もお礼にクマさんのキーホルダーを貰ったよ。

 りょう先輩の妹さんと同じなんだね。


「りょう先輩には妹さんがいたんですね?」

「そうだよ。だからかもしれないね。最初にモエちゃんを見た時、側に居たいと思ったのは」


 りょう先輩は私を、妹のように可愛がってくれていたんだ。

 最初から恋愛に発展することはなかったんだ。


 私とりょう先輩にはハッピーエンドは訪れない。

 それでも私は、りょう先輩が好き。

 だからこの関係のままでもいいのかもしれない。


 好きになったら仕方ない。

 ハッピーエンドじゃなくても、この想いは大切にしたい。


「それじゃあ、最初に行くコーナーは何処がいい?」

「りょう先輩の行きたいコーナーからでいいですよ」

「それならお菓子コーナーだね」


 リョー先輩と来た時には、私が一人で舞い上がっちゃったから、今回はりょう先輩を優先しなきゃ。

 りょう先輩が楽しんでくれたら、私も嬉しいから。


 りょう先輩は、たくさんのお菓子を両手いっぱいに持っていた。

 そしてそのままレジへ向かった。

 私はその間に、クマさんのキーホルダーを見ていた。


 緑色のクマさんは欠品していた。

 入荷予定もないみたいだった。

 リョー先輩に買ってあげたやつが、本当に最後の一個だったんだ。


「そのクマって、あいつが持ってるよね?」

「えっ」


 私は驚いて振り向くと、大きな袋を持って、りょう先輩が立っていた。


「大事にポケットに入れているのを見たよ? キーホルダーなんだから、バッグにでもつければいいのにって言ったら、恥ずかしいって言ってたんだ」

「恥ずかしいかぁ、、、」


 リョー先輩はバッグにつけるつもりは、なかったみたいだね。

 嘘だったんだね?


 嬉しそうにしていたのも嘘なんだね?

 だからあの時、笑顔が消えたんだ。

 どうして気付かなかったんだろう?

 私って本当にバカ。


「、、、、なんだよ。ってモエちゃん? 聞いてるの?」

「えっ、あっはい! 聞いてますよ」


 本当は全然聞いていない。

 リョー先輩の嘘がショックすぎて。

 リョー先輩のことが、分からなくなって。


「僕はずっとあいつと一緒にいるから、あいつの考えていることは分かるけど、モエちゃんには難しいよね?」

「えっ」

「あいつって、僕と違って、喜怒哀楽が分からないからね。でもモエちゃんには出してるよね? いつも楽しそうにしてるし」

「意地悪なだけですよ」


「そうだね。モエちゃんにだけだよ」


 りょう先輩は私にウインクをして言った。

 そんな、りょう先輩も可愛い。

 胸がキュンとした。


「モエちゃんに良い事を教えてあげるよ」

「良い事ですか?」

「そうだよ。この緑色のクマは、自分の為じゃなくて、誰かの為に手に入れた人は、幸せが訪れるんだよ?」

「そんなこと初めて聞きましたよ?」

「だってこの事は、原作本を読んだ妹が言っていたんだ」

「アニメしか観ていない私には、知らない事ですね?」

「うん。だから、モエちゃんにも良い事があるよ」

「はい!」


 私は嬉しくなった。

 だって私は、リョー先輩に緑色のクマさんをあげたから。


 あれ?

 私ってりょう先輩に、クマさんのキーホルダーをあげたことを言っていないよね?


 そっか。

 りょう先輩は、いつか私が誰かに、クマさんのキーホルダーをあげる時のことを考えて、言っているんだよね?


 だってリョー先輩にあげたことは知らないはずだから。


「お兄ちゃん?」


 私達の後ろから声がした。

 りょう先輩と二人で振り向くと、そこにはフランス人形のような、可愛らしい女の子が立っていた。


「ルウ! もしかして、ルウもお菓子を買いにきたの?」

「お兄ちゃん、違うわよ。私はクマさんを探しているの」

「クマ?」

「そうよ。お兄ちゃんの目の前にあるクマさんのキーホルダーよ」

「それなら沢山あるよ」


 りょう先輩はそう言って、妹さんに場所を譲る為に端に寄る。


「お~い、ルウ」


 聞き覚えのある声に私は目線を上にあげた。

 だって、その相手の顔を見るには、上を見なければいけないことを、私は知っているから。

読んでいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら、幸いです。

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