第伍拾漆話 カミツレ来ル
廊下から聞こえてくる堂々とした足音。遂に彼女と会えるのだ。応接室の扉を叩く音。
「モスコーロア帝国の使者方々をお連れしました」
「どうぞ」
「失礼します」
そう言うと入って来たのは、メイド服を着た背の高い黒髪の女性だった。
「あなたは?」
「わたくしは、カミツレ様のメイド兼補佐を務めさせていただいている。カチューシャと申します」
「そうですか。お会いできて光栄です。それで、カミツレ殿はどちらに?」
「カミツレ様は間もなく来られるかと」
「そうですか」
その時。廊下から高らかに笑う2人の女性の声が聞こえてきた。片方は恐らく幸樹ちゃんだ。わたしが不思議に思っていると、そのまま幸樹ちゃんが入って来た。
「陛下。モスコーロア帝国の使者の方をお連れしましたで」
「まぁそれはいいけど、なんであんなに盛り上がってたの?」
「あ~。それでしたら、迷子になっているのをうちが発見しまして、声を掛けたら、モスコーロア帝国の使者や言うんで、案内ついでに話とったらたこ焼きの話題で盛り上がってもうて」
「はぁ、大阪や東京の一部でしかまだ店が無いのに外国の方とそれほどまでに盛り上がれるとは、よっぽど博識な方なんでしょうね」
「は!?」
そんなに驚いて、まさか今頃? まぁうちの国でも一部の人間しか知らない珍味を語れるくらいだから、よっぽ情報戦が上手いか、もしくは……。
「失礼しますよ」
そういって入って来たのは、報告通りの銀髪の女性だった。ショートヘアだがたなびきそうな程サラサラだ。
「この度は、始との戦争の勝利、そして、遷都おめでとうございます」
「こちらこそ、わざわざ遠くから来てくださり、ありがとうございます。カミツレ殿」
「そんなによそよそしくしなくてもいいんじゃない? 親戚同士なんだから」
「「ッ!?」」
「馬鹿な事を。うちも葵姫はんとこの親戚の集まりには何べんかおじゃましたけど、あんたみたいな顔は見覚えないで」
「いや。それがいるんだよ。幸樹ちゃんは知らないだろうけど、わたしがまだ中学の時に、当時のわたしと同い年で亡くなった親戚が……」
「なんやて!?」
「その名は、『吹雪 神奈』家の分家出身で、学校でのいじめをきっかけに自殺した」
「そうその通り。わたしの本名は吹雪 神奈。でも、一つだけ違うところがある。それは、わたしが死を決意したきっかけだ。わたしは確かにいじめを受けていたが、それが辛かったのではない。わたしは同じ人間道でわざわざ自分とは違う点を探して大多数が少数を差別する。そんな世界が嫌になったんだよ」
「だからこの世界で、力を持ち、差別のない世界を作ると?」
「おや。何の話かな?」
「とぼけなくていい。あなた達が各地で共産革命を起こそうとしているのは分かっている」
「ふッ。それで、わたし達をどうする気?」
「どうもしないよ。うちの国に敵意を持つなら話は別だけど」
「わざわざ敵意を示すために自分から乗り込んでくる奴なんている?」
「いないだろうね」
「なら分かってもらえてるようね」
「それで、わざわざあなた達が来た理由は? うちとモスコーロア帝国との国交を結びに来ただけではないんでしょ?」
神奈はお茶を一口飲んで話し始める。
「やっぱり日本茶もいいわね。もうこの際だから単刀直入に言うわ。大日本帝国には、わたし達ボルシェビキを手助けしてほしいの」
「「へ?」」
訳が分からなくてわたしだけでなく幸樹ちゃんまでぽかんと口を開けた。
「何をゆうとんねん! 帝国主義や君主そのものを打倒しようとしてるあんたらになんで肩入れせなあかんのや!!」
「確かにわたし達は帝国主義や奴隷制度、階級社会なんかを打倒しようとはしてるけど、わたし達がいつ君主を打倒するなんて言った?」
確かに言われてみれば、奴隷や少数民族の解放なんかは聞いた事があるが、君主を引きずり下ろすなどの事は今のところ聞いた事がない。
「せやけど、あんたらのような考えが蔓延すれば、いつうちの陛下に反旗を翻す輩が出てくるか分からへん。無理なもんは無理や!」
「そう? わたし達が元々居た日本を考えてみなさいよ。GHQによって階級社会は無くなり、財閥も解体。政府によって貧困層は援助を受け、富裕層は政府に対し多額の税金を支払う。そしてまたその税金で貧困層を援助する。つまり、他国の資本主義のような貧富の差は殆どない。評論家や同志達はこれを何と呼ぶか、最も成功した共産主義国。そしてそんな国には天皇という国家の象徴であり、老若男女問わず多くの国民に好かれる存在が居られる。わたしは君主が国家の象徴である事は素晴らしい事だと考えているの。だからわたし達の掲げる敵に君主達は入っていない。わたし達が目指す国は、君主制共産主義なんだからね」
「なんていうか、なんか言ったら悪いけど、なんか字ずらが気持ち悪さというか、違和感しかない」
「まぁ、この世界には共産主義が元々どんな考えか知る余地はないから、皆違和感ないんやろうけど、うちらはな……」
「とにかく、君主のいる、民族自決を尊重した共産主義国をわたし達は作りたいの」
「そうか。頑張ってとしかわたし達からは言えないな」
とんでもないぶっ飛んだ思考を前にわたしは身構えるのをやめてしまった。
「そう。残念だわ。じゃ、うちの国にあなた達の国に旅行したい人が大勢居るらしいから、よろしくね」
「待って、待って。分かったよ。ある程度の援助はする」
「そう。良かった」
この子の満面の笑みがまた腹立つ。
「ただし、うちが支援するのは、資源のみ。義勇兵は個人の判断に任せる。そしてボルシェビキと大日本帝国並びにその同盟国で不可侵条約を締結し、うちの同盟国では革命活動を一切行わない事が条件だ」
「分かったわ。でも、勝手に沸いたのは知らないからね。まぁ、その組織に対してうちは援助をしないと誓うわ。それでいいでしょ?」
「いいでしょう。では、改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いいたします」
わたし達は秘密条約を締結した後、表向きの大日本帝国とモスコーロア帝国との国交を樹立した。
ここからわたし達の新たな開放が始まる。




