第伍拾弐話 朱雀事件
あの日以来二人は文通を続けているらしい。まめなところも息ぴったりだ。これは結婚の報告も近いだろう。そう思っていた時。わたしの事務室の扉をノックする音が聞こえた。どうぞと、返事をすると、噂のカップルが手をつないで入って来た。
「おやまぁ。随分と仲良くなったね。葵、ウミちゃん」
「はい。その事で今回は、姉さん、いえ、陛下にご挨拶をしに参りました」
葵がわたしの事を陛下と呼ぶ事なんて殆ど無いのでわたしも緊張してしまった。しかし、それは葵も同じだった。顔がりんごのように真っ赤になっている。
「殿下。しっかりしてください。わたしから言いましょうか?」
「大丈夫。ありがとう。改めまして陛下。わたくし、白雪 葵は平ノ宮 海と結構致します!!」
「おめでとう! よくやったよ葵」
わたしは席を立ち二人を抱き寄せた。
「ウミちゃんもこれからは葵をよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
それから間もなくして大日本帝国とジパング王国の両国で結婚式が行われる事になった。大日本帝国では帝都にて国を挙げて結婚式を挙げた。葵は白いタキシード、ウミちゃんは白いドレスに身を包み、一連の流れを行った後に、国民にその姿を披露した。その祝福の歓声は帝都中に響き渡った。
その次の日にジパング王国の都にて結婚式が挙げられた。ジパング王国では二人は和風の正装に着替え、朱雀大路を往復する手はずになっていた。序盤は問題なく進み、国民は大きな歓声を挙げていた。しかし、その中盤に差し掛かった頃、いきなり二人の馬車の前に男が飛び出した。護衛がすぐさま取り押さえるも、懐に爆弾を持っていたのかその場で爆発を起こした。周辺はパニックになるも、護衛達は葵とウミちゃんの馬車を急いで宮中へ引き換えさせた。そして周囲の人々を迅速に退避させた。
「で、これが事の顛末ね?」
わたしはジパング王国の宮中にある会議室にて今回の警備責任者のアルナさんから事の顛末を聞いていた。因みにこの部屋にはアラビア行になっている忠政君と満月ちゃん以外の転移組、財務大臣のアルゴさん、建築大臣のワークナーさん、沖縄総督ショウシさん、そして今回の新婚さん二人に、ウミちゃんの取り巻き三人組の他ジパング王国のお偉い様方が集まっていた。
「はい。このわたしが警備の監督をしていながら起こってしまった殺害未遂事件。アルナ=イゲイナ一生の不覚です。どうぞわたくしめを始末してください!」
「今回の件の始末は葵に任せるよ。どうする? 葵?」
「確かに殺害未遂が起こった事は腹立たしい事であり、殉職者が二名も出てしまった。これらは責任者を始末するべき事態。しかし、その後の対応の素早さと厳重さは素晴らしい。そのおかげで数時間しか経っていないのに既に都は落ち着きを取り戻しています。これは賞賛すべきことです。よって、わたしの許可が出るまで謹慎処分とします。この会議が終了次第、即刻自宅に帰りなさい」
「はッ!! 承知致しました」
「では、本題に戻ろうか。それで、アルナさん。ボンバーマンの素性は掴めたの?」
「はい。瞳殿の研究部隊の尽力もあり、残った骨格から判断したところ、大陸の人間。つまり、始の者である事が分かりました」
その発言の後、ジパング王国のお偉いさん方は騒ぎ出した。ある者は即刻講義、報復するべきだ。ある者はそんなわけがない。良い大人がギャーギャー言い争っている。
「黙れ」
わたしは皇帝覇気を使い、その場にいた人々を黙らせた。
「真実は一つ。始の者が我らが皇太子夫妻を殺害しようとした。ただそれだけです。そして彼らは以前から我らに屈服するように脅しをかけていました。恐らくこれもその一環。いや、タイムリミットを示すものでしょう。わたし自身、平和的に始との関係を築きたかったのですが、彼らが武力に走ったのならば仕方ありません。今回の始の行いは我が国家その物を危険にさらしたものとし、宣戦布告する」
殆どの者はいきなりの事に呆然としていたが、ウミちゃんが慌てて進言しだした。
「待ってください! 始ですよ!! 大陸を支配し、西の帝国らもその領土と力量の膨大さから眠れる獅子と恐れる程なのですよ!! ここは講義の意志も伝えつつ、詫びを入れれば、平和的に収まるはずです」
「ウミ陛下。いや、もう身内だから、ウミ。既に彼らは平和的に解決するという選択肢を捨てたのだ。拳で語り合いたいなら拳で返さなければならない」
「しかし、事件を起こしたり、港を占拠したところで……」
「ハハハッ!! ウミ面白いね。そんな事するわけないじゃん」
「え? 戦闘行為をするんですよね?」
「そうだよ」
「どういうことですか?」
「つまり、奴らの都を焼くんだよ」
「え?」
「今の都だけじゃない。歴代の都に次の都候補も全て燃やし尽くす」
「待ってください。そんな事不可能です!!」
「ほう。では、軍事担当のお二人に聴いてみようか。どう思う? 一二三、友美ちゃん?」
「俺、上海」
「そしたらあたしは北京」
「はい!! わたくし瞳は南京がいいのであります!!」
「なんや早いもんがちかいな。そんなんずるいわ。ほなうち重慶」
「お~さすがア“ル”ガ。難しいとこ行くね」
「ア“ル”ガちゃうわ! ア“リ”ガや!!」
「はいはい。わかったから、みんなで一緒に燃やせばいいでしょ?」
「「「「はーい」」」」
頭のネジが飛んでいるとしか思えない会話にジパング王国の方々は引いていた。
「ちょ、ちょっと待ってください。皆さん本気ですか?」
「ウミ。今日から白雪家に入る君に1つ助言をしよう。姉さんが出来ると言ったら、とにかくやってみる。それが僕達の暗黙のルールさ」
「はぁ……わたしはとんでもないところに嫁に来てしまったかもしれない……」
「お前らーーーーー!!!! 丸太は持ったか!! 戦じゃーーーーーー!!!!」
「「「「おおぉぉぉぉーーーーーー!!!! キャンプファイヤー!!!!」」」」
「「はぁ……」」
こうして、ジパング王国のお偉いさん方を圧巻させ、葵を除いた転移組以外のいつものメンバーからは呆れられたまま、我々は始との戦争に挑むことになる。




