第伍拾話 去ル者来ル物
わたしは中東派遣大隊が本国を出るという事で、港まで見送りに来ていた。港は見送りの人達で大賑わいだ。わたしは代表者であるメルテムさんに会うと、メルテムさんは何やら楽し気だった。
「メルテムさん。どう? 心の準備は出来た?」
「はい!! こんなにも立派な艦隊をあたしなんかに任せて頂き、感激しております!!」
「それなら良かった。はい。これプレゼントね」
わたしは後ろに控えていた使用んから瓶に入った日本酒を受け取り、そのままメルテムさんに渡した。
「これは?」
「これは、古酒といってね。泡盛を窯に入れて寝かせた物だよ。しかも、これは百年物でとっても貴重なんだよ」
「そ、そんな物をあたしに!? いいんですかい?」
「もちろんだよ。少しばかり、別の八十年物も持って来てるからこれで良ければ一口どう?」
「はい! いただきます!!」
わたしは使用人を呼ぶと、小さい瓶に入った古酒とお椀に乗った大小の盃が二つ。使用人が大小それぞれの盃に古酒を入れると、大きい方をわたしに、小さい方をメルテムさんに渡した。
「これは、つまり、そういうことですね?」
「おや? 知ってたの?」
「ええ。酒場仲間から聞いた事が有りますよ。親子盃ってやつでしょ?」
「そう。もし、うちの国に不満が出たなら、その盃を返しにおいで」
わたしが、古酒を一気に飲み干すと、メルテムさんはそれを見計らって同じく一気に飲み干した。そしてメルテムさんはその盃を懐に入れると、ニッコリと笑った。
「どこか独特ではあるが優しくて飲みやすい。それに、こんなにも綺麗な器。陛下。この盃はあたしの墓石にすんだい!! 誰が返すかよ!!」
軽く酔っているようだが、畏まっているメルテムさんより、この勢いが現れているメルテムさんの方がわたしはかっこよくて、頼りになると思った。
「メルテムさん。あなたはわたしの部下であり、友でもあります。今後は今の様にため口で話す事を許します」
「そいつはどうもありがとな!!」
すると、桟橋の方から、乗組員が叫んだ。
「メルテム長官殿!! もう出港しますぞ!! 長官殿も艦橋で準備をお願いします!!」
「ああ!! 分かった!!」
メルテムさんはわたしにこくりと頭を下げると、さっきの乗組員が居る桟橋に向かった。
大量の物資と中東派遣大隊を乗せた輸送船団は大きな汽笛と共に港を出港した。
そして、わたしはこれから来る来賓に備えて、皇居へと戻った。その来賓とは……。
「にゃ~!! 葵姫陛下にゃ! 久ぶににゃ!!」
「これ! フウカ! いくら親しい仲とはいえ、礼儀っちゅうもんがあるやろ!!」
「にゃ~。すみませんにゃ~」
「二人共、騒がしいですよ」
「陛下の仰る通りです。お二人共少しは静かにしてください」
そう。ジパング王国天皇ウミちゃん、その側近三人衆のフウカちゃんにホムラちゃん、シグレ君。いつ見てもケモが戯れている様子は微笑ましい。
「それでは、早速お話を始めましょうかね。どうぞ、お掛けください」
「ソファーにはウミちゃんだけが座り、残りの三人はウミちゃんの後ろに立った。
「今回のお話とは何でしょう? 例のシベリアの兼でしたら、食料や労働者の提供はお約束したはずですが」
「それは、とても感謝しています。ただ、それとは関係しているには関係しているのですが、少し違います」
「では、なんでしょう?」
「ウミちゃん。何故わたしがシベリアにジパング王国の人々を入植させる許可を出したと思う?」
「それは、食料と労働力の見返りではないのですか?」
「それもある。しかし、ちょっと違う。実は、大陸の始と戦争になるかもしれなくてね。全面的に協力して欲しいんだ」
「つまり、貴国と始の戦争に我々も参加しろと?」
「そう」
「それは出来かねます! 今我が国は人も経済も疲れ切りっており、その様な大規模な戦争に参加する事は出来ません!!」
「なら、いいよ。御宅との国交を断絶するだけだから」
「そんな事をして、始と我々が協力したらどうする気です?」
「その時は、貴国に居る第一師団とやまとが何とかしてくれるよ」
「ッ!? し、しかし……」
「分かったよ。わたし達の仲だし、貴国の情勢は考慮するよ。こういうのはどう? 貴国の統治権をわたし達に譲渡する代わりに、今回の戦争では貴国の領土に住む人々には一切協力を要請しない。それどころか、今よりも教育、道路整備、経済の面で補助する事を誓うよ」
「そんなん無茶苦茶やで!」
「そうにゃ!」
「流石に横暴すぎます!!」
「いや。待って三人共。今の我が国に、争い事を起こす力はない。それに、教育、交通、経済、まして治安と軍隊まで大日本帝国に依存している状態。既に王手は掛かっていたのですよ」
「「「ッ!?」」」
「これは冷静に判断できなかったわたしの責任です。統治権を譲渡した後に公開処刑にでもしてください」
「「「陛下……」」」
「そいつは、無理な相談だね。貴国がこのまま素直に我が国に編入されれば、軍人はそのまま雇い入れるし、公家も統治に協力してもらう。そして、皇室は、うちのに入ってもらう」
「「「「え?」」」」
「い、今、皇室はどうすると?」
「うちのに入ってもらう。つまり、ウミちゃんにはうちに嫁に来てもらう」
「「「「え!?」」」」
「よ、嫁はんってゆうたって、葵姫はん女やん! まさかそんな趣味が……」
「違うわ!! わたしの弟の白雪 葵の嫁になってもらう」
「わ、わたくしが、葵さんの、お、お嫁さん……。ほッ……」
「「「陛下ーーーー!!!!」」」
ウミちゃんは、顔を真っ赤にしたまま、目を回して倒れてしまった。
「すみまへんが、今日の所は、これにて終いにさせてもらいます。また明日伺いますので!!」
「失礼します!!」
「失礼するにゃ!!」
そう言うと、三人はウミちゃんを抱えて、急いで出て行った。まさか、あそこまで耐性が無いとは……。まぁ、それはそれで可愛いな~。




