第肆拾玖話 亜細亜ノ始租
御前会議からしばらく経ってわたしが、自分の事務室で中東派遣とシベリア出兵の準備は順調に進んでいるという報告を受けていると、廊下をドタドタ走る音が聞こえた。こんなにもうちの者が慌てているという事はどうせ碌な事が起こっていない。そうして、わたしは今回は何かと頭を抱えていると、突如として思念伝達が飛んできた。
「姉さん!! 大変です!」
「あ~。葵? 今回はどうしたの?」
「商業用に新たに建設した港の沖合にアジア系の帆船多数が許可なく接近しているとのことです!」
「え。海賊かなんか?」
「どうもジパング王国の商人が言うには大陸の大国の船だそうです。因みに彼らはその国の事を『始』と呼んでいます」
「それで、要求かなんかしてきてるの? それともただ商売しに来ただけ?」
「そうでもないようです。偵察に出た零戦からの報告によると、大型の帆船五隻に武装した集団が乗っていたとのことです」
「も~めんどくさいなぁ。そことはあんまり争いたくなかったんだけど……。まぁいいや! こっちからもその船に対して使者をだして。兎に角彼らの目的が知りたい」
「そう仰ると思ってこちらで既に手配済みです。警戒活動中のもがみも迅速にそちらに向かわせています」
「流石、わたしの弟~。仕事が早いね~。後でよしよししてあげよう」
「遠慮しときます」
「え~」
少しふざけてしまったわたし達だが、事の重大さは重々承知している。
「姉さん。もしもの事が有れば、よろしいですね?」
「うん。彼らが明確な敵意を見せた場合。一隻を残し、それ以外の四隻を撃沈する事を認める」
「承知しました。お任せください」
そうか~。そりゃこの世界にも類する者は居るよな~。
わたしはそう思いながら、椅子を傾けぶらぶらと揺れていた。兎に角今は待つしかない。わたしは内心ドキドキしながら待っていると、また葵からの思念伝達が来た。
「姉さん。彼らの目的が分かりました」
「なんだった?」
「それが、彼らが言うには、始が面倒を見ていたジパング王国に対して始に挨拶をせずに勝手に外交をして好き勝手するとは許せない。ましてや、亜細亜の親であり始祖である始に挨拶をせずに亜細亜で暴れまわるとは無礼極まりないとして、王を連れて来い。今すぐ始の皇帝陛下の前に跪き、謝罪せよ。とのことです」
「あ゛~!! もうめんどくさい。分かったよ行っていやるよ! 行ってやる! ただし!! 自分達の船で行くと伝えておいて!」
「分かりました。ですが本当に大丈夫ですか?」
「これはただの時間稼ぎだよ。その間に故郷をわたし達の物にする。それに、わたしは行かないし」
「え? 王が来いとの事だから天皇陛下である姉さんが行かないでどうするんです? それこそ戦争になりますよ」
「まだまだだな~葵は~。彼らは何て言ったの?」
「王を連れて来い。と」
「そう。決してこの国の王とは言ってない」
「あ! まさか……」
「この国には現状も国王でありうちの国の財務大臣もしてくれてて、元国王で始との繋がりもありそうな沖縄総督もいるでしょ?」
「姉さん……。ほんとにこれで争いになっても知りませんよ……」
「大丈夫。大丈夫! 何とかなるって」
「それに、故郷を僕達の物にするってことは併合するって意味ですよね? しかも、始の気を引いている隙に。具体的にどうする気ですか?」
「それなんだけどね。葵とウミちゃんには、結婚してもらいます!」
「なるほど! そうすれば向こうの王家や貴族も納得、するかーーーーーー!!!!!!」
「え? だめ?」
「な、なに突然とんでもない事言い出してるんですか!! ぼ、僕がウミさんと結婚だなんて、そ、そんな……」
「案外乗り気でしょ?」
「そ、そんな事ありません!!」
「弟よ。姉は分かっているのだよ。君が実はケモナーでしかも犬系が好きという事を!!」
「なッ!!」
「さらーに!! 君は普段は大人しくてか弱い雰囲気が有るけどいざという時に頼りになる感じの子がタイプだ!!」
「なーーーーッッ!!」
「どうだい? 完璧だろ? って、あれ? 葵?」
わたしが気が付いた時には既に思念伝達は切れていた。少しからかいすぎたかな。
一方、葵はその頃。顔を両手で覆い隠ししゃがみ込んでいた。しかし、後で周りの人から聞いて話では、耳や漏れ出た頬は真っ赤に染まっていたそうな。




