第肆拾肆話 ジパング開放戦(中)
わたし直々の命を受け、赤城の艦橋では緊張が走っていた。これまで空母の甲板を想定した訓練して来た精鋭達を選出したが、予定よりも空母の就役に伴い、作戦自体の実施が早まったので、パイロットの中では少し不安が残っていた。
その事は一二三も重々承知していた。
『パイロットの諸君らに告ぐ。諸君らは世界で初めて空母からの発艦を行う。これは非常に名誉な事であり、諸君らの名は後世に語り継がれるだろう。諸君らはそれに見合う訓練をしてきたはずだ。自分の腕を信じろ! 今までの訓練を信じろ! わたしは諸君らが勇ましく戦い、無事に長崎にたどり着くと信じている。では、パイロット諸君。配置に付け! 発艦だ!!』
「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーッッ!!」」」」」」
パイロット達の雄叫びは赤城艦内全体に響き渡った。
パイロット達は迅速に準備を済ませると、それに答えるように赤城は追い風になるように舵を切った。そしてみるみる速度は上がってゆき、最大船側に迫ると、まず護衛用の零戦が六機発艦した。発艦の無事を見守ると、次に問題であり、この作戦の要である九九式軽双発爆撃機が発艦を始めた。
最初の一機目は徐々にスピードを速め、甲板の端まで到達すると、甲板からスッと落ちて行ってしまった。誰もが駄目だと思ったその時、落ちたと思われた九九式軽双発爆撃機が無事に浮かび上がってきたのだ。甲板に居たみんなは歓喜の声を上げた。それによって活気づいたパイロット達は次々に発艦し、搭載されていた全十機は無事に発艦を遂げ、全十六機は鎌倉に向かって飛んで行った。
赤城から発艦した飛行隊は、鎌倉より少し江戸よりから本土に入った。城の正確な位置は分からなかったし、もし対空兵器があるか試したかったしね。零戦隊は本土に入ってからもしばらく九九式軽双発爆撃機隊と共に飛行したが、敵の対空兵器が無い事を確認すると、赤城に帰艦することにした。
「赤城に連絡。こちら零戦隊隊長。対空兵器は無いようだ。直ちに帰艦する」
「こちら赤城。了解。気を付けて帰還されたし」
「それじゃ~。爆撃機隊も気を付けてな。派手にやってこい!」
「感謝する。そちらも気を付けて」
「あぁ、それじゃ!」
そう言うと、零戦隊は進路を変え、赤城へと帰艦して行った。
「隊長! 正面に栄えてる町があります! それに、海岸の近くには大きな屋敷があります!」
「ここは位置的にも鎌倉の中心地となる港町だ。間違いない。あれが目標だ! 一号機から全機に告ぐ。総員爆撃準備! いいな。町には落とすなよ! 城とその周辺だけだ。城にだったら機関銃も撃ち込んでも構わん! それじゃ。総員! 一層奮励努力せよ! 通信終了」
その頃、鎌倉の城内では源ノ宮家統領源ノ宮 義忠が家臣から報告を受けていた。
「御屋形様。ウミ様率いる賊軍は既に九州を掌握したとの噂もあります。我々も都に参りましょうぞ」
「そうか。九州には優秀な武士が大勢いたが食い止められなんだか。陛下は何と申して居る?」
「本州に入る前にさっさと倒してしまえと」
「ふむ。とにかく、我らも都に参る。全軍を集めよ!! 万が一に備えて東北でも兵をかき集めさせておけ」
「はッ!」
そう言って家臣が下がると、義忠は窓の傍に行き、西の方を眺めていた。
「ウミ様。いかにしてそのような戦力を……。御転婆お嬢様は変わっていないようだな」
すると、またさっきの家臣が慌てて戻って来た。
「お、御屋形様!!」
「いかがした。何か伝え忘れた事でもあったか?」
「ひ、東から巨大な鳥の群れがこちらに迫っております!」
「巨大な鳥だと? そんな物気にするでない。大きな鷹か何かだろ」
「そ、それが、鷹でも鳶でもありません! それとは比べ物にならぬ大きさで、凄まじい速さで飛んでおります」
「何!? 見てみたい。それは何処だ」
「こちらでございます」
義忠は庭に出ると東の空を見上げた。
「なんだ。あれは……」
義忠が見た物、それは確かに鷹でも鳶でもなかった。しかし、これだけは分かった。まっすぐにこっちに向かって来ているという事だ。
「御屋形様、急いで城の中に!」
「あぁ……」
「皆の物! 武器を持て!! 奴らが来たら追い返すのだ!」
「「「「はッ!!」」」」
え? いくら晴れてると言ってもそんなに見えるのはおかしいって? そんなの、住民に恐怖を与える為に低空飛行をしているだけだよ。
「来るぞ!! 構えろ!!」
全員が槍を空に向けた瞬間、悲劇が始まった。
ド――――――ンッッ!! ド――――――ンッッ!! ド――――――ンッッ!! ……。
突如として爆発音が鳴り響いた。
「何事だ!?」
「分かりません!」
「上だ上! 何か落ちて来る!」
城内に居た者は巨大な鳥から落ちて来る物を眺めていた。それが地面に着いた瞬間、
ド――――――ンッッ!!
大爆発を起こした。それを見た者達は一斉に逃げまどい始めた。だが、爆撃機隊は城内全域に爆弾を落としている。逃げまどう人々は全員吹き飛ばされた。勿論、城も、吹き飛ばされ、あちこちで火事が起こっていた。
「御屋形様!! お逃げ下され!」
家臣が爆発を見て慌てて義忠の元へ行くと、義忠が居たはずの部屋は完全に吹き飛ばされ、その周辺には燃える瓦礫と、丸焦げになった肉片のみが散らばっていた。
「御屋形様ーーーー!! うわぁ゛ーーーー!!」
しかし、そんな男の涙も虚しく、残った者は九九式軽双発爆撃機の機関銃でなぎ倒されていった。鎌倉の城の炎上は全国の民を絶望と不安のどん底にたたき起こすことになった。
源ノ宮家首脳達の殆どはこの作戦により死亡。統領の居ない軍隊がまともに維持できるわけもなく、源ノ宮軍は戦わずして使い物にならなくなった。
この事を受け、天皇は慌てて他の軍を集めようとするがいつまでたっても来ない。それもそのはず。ジパング王国の国民にとって希望の星だった源ノ宮家が一瞬にして焼けてしまった事により、人々の不安と上の者への不信感は爆発。各地で一揆や謀反、中には御家ごと天皇に対して謀反を起こす家さえ現れた。
この結果を見ると、作戦は大成功と言える。この作戦の関係者にはわたし直々に勲章を与えるとしよう。
わたしは、早朝に皇居の窓から、東から昇ってくる太陽を見ていた。
「古い日が沈み、夜の暗闇が訪れ、そして新しい日が昇る。そろそろ、新たな日が昇る頃かな……」




