第参拾漆話 仲間
軍の能力表示翌日の朝。葵と一二三は昨日の反応を聞くために今日も九四式軽装甲車で宮殿に向かっていた。当然、護衛のウミちゃん達も後ろからついて来ていた。今日は九四式軽装甲車総動員にして、全員それに乗って宮殿に向かっていた。
「あ~頭いて〜。あんまり揺らさないでくれ……」
「も~。一二三さん。だからあんなに昨日は控えめに飲むようにと言ったのに……」
「葵。そんなこと言ったってよ。部下とのコミュニケーションは大切だろ?」
「まぁそうですけど、会談中に頭痛を訴えたりしないでくださいね」
「分かってるよ……」
葵と一二三は皆が分からないように日本語で大声で、そんな会話をしていた。そんなくだらない葵と一二三は宮殿に着くまで気づかなかったが、後の報告によると町の人々は兵士も含め大騒ぎだったそうだ。
葵と一二三、そして護衛のウミちゃんは昨日アブデュル陛下と会談した会議室に案内された。そこには、アブデュル陛下だけでなく、肥満体系でちょび髭てっぺんハゲのどこかの貴族らしきおじさんが座っていた。
葵と一二三は案内された席に座り、ウミちゃんはその後ろに凛と立っていた。すると、例のおじさんが葵と一二三に話しかけてきた。
「これはこれは、白雪殿下に、山本海軍大臣。お会いできて光栄です。わたしの名はベンジャミン=デズレリーと申します」
「こちらこそ、お会いできて光栄です。デズレリー殿。よく我々の名前が分かりましたね」
「いえいえ。我々の情報員は優秀ですから」
少し緊張した空気が漂う中、アブデュル陛下は二人の会話に入った。
「この度は我が国が仲介役として、大日本帝国とブルベル帝国の会談を進めて参ります。基本的にはわたくは口出しは致しません。ですが、会談が危うい方へ進んだ場合はわたしがその間に入らせて頂きます」
「分かりました」
「承知致しました」
こうして、オズメン帝国の時とは比にならない程の緊張感が漂ったブルベル帝国との会談が始まった。
最初に切り出したのは、デズレリー殿だった。
「まず、貴国が“まぐれで”破壊した我が国の戦艦の請求額についてですが……」
葵と一二三はこの時、何を話しているのかは理解できた。しかし、ブルベル帝国側のあまりにも自分勝手な要望に、二人は、唖然としてしまった。
「おや? 貴国にはこの額は大金過ぎましたかな? まぁ仕方ありませんな。アジアの国々は皆そうです。そうですな。貴国の軍港を我が国に貸し出してくださるのであれば、支払いはしばらく待ちましょう! どうです? いい提案でしょう?」
葵はグッと怒りをこらえて、笑いながら答えた。
「それは、貴国にとって凄く良い提案ですね。我が国の軍港が使えれば貴国の太平洋艦隊はより強力なものになるでしょうな~。ですが、どうやら貴国が、貴国の太平洋艦隊と連絡が取れないとお聞きしましたが?」
「それなら、何の心配もありません。少し遅れているだけですよ」
ここで、拳を握りしめて怒りを抑えていた一二三が切り出す。
「貴国の太平洋艦隊がどうなったか知りたいですか?」
「何?」
デズレリー殿は疑いながらも、一二三の発言に耳を傾けた。
「貴国の太平洋艦隊並びに陸軍は我々の忠告を無視し、我が国の領土である沖縄に攻撃を行ったため、我らが大日本帝国海軍第二艦隊並びに、大日本帝国陸軍が壊滅させていただきました」
その事をどうやらデズレリー殿は知っていたようで、図星をつかれたような顔をした後、顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
「調子に乗るなよ!! アジアの小国ごときが!! どうせ我が国の情報を姑息にも盗み出したのだろう? は~ぁ、これだからアジアの小国は……」
葵はこんなに言われても一切怒らなかった。寧ろ葵は笑顔で話し始めた。
「我々は貴国とは違い、盗み聞きも盗み見もやっておりません。証拠を披露しましょう」
葵は思念伝達をデズレリー殿に向けて送った。
『我々はこのようにして相手の頭の中に自分の考えている事を流すことが出来ます。勿論、これはどんなに離れていても有効です』
デズレリー殿は葵の思念伝達を披露され、今度は顔を真っ青に染めた。
「モ、モンスターだ!! このモンスターめ! わが軍を持って成敗してくれる!! どおりでこのような神聖な会議室に獣人などという汚らわしい“物”を持ち込むわけだ。やはりアジアは野蛮な奴らの集まりであったか」
これを聞いてアブデュル陛下は流石に同じアジアに跨る国として聞き捨てならないと、デズレリーに発言を撤回させようとした。その時!!
ピキッッッッ!!!!
「ひッッ!!」
あの葵が遂にキレた。あの常に温厚で冷静な葵が、額の血管を浮かび上がらせる程に……。
そして、葵はこの時無意識だったが皇帝覇気の様なスキルを発動させていた。わたしはわたしと同じ血筋、つまりこの世界では皇族の葵にはわたしと同じとまではいかなくとも、似たようなスキルがあるのではないかと疑っていた。結果的にその予想は当たったのだが、葵のキレ具合の割には威力は低かった。
とは言っても、会議室内は勿論、会議室周辺に居たアブデュル陛下とデズレリー殿を除いたオズメン帝国とブルベル帝国の者達は泡を吹いて気絶していた。わたしなら恐らく、町全体にその被害は及んでいただろう。これはスキルがそもそも下位互換だと予測できる事と、葵のまだ冷静さを保とうとする意志がこの結果を生んだのだろう。
葵の覇気を受け、デズレリーは椅子から転げ落ち、顔を更に青く染めた。そして、デズレリーは顔だけでなく、股も周りの生地に比べて濃ゆく染まっていた。
「や、やはり、モンスターだ!! 即刻退治せねば!!」
葵がモンスターなのはデズレリー視点から言うとあながち間違っていない。デズレリーからしてみれば、今の葵は悪魔その物に見えているのだろうから……。
そんなデズレリーに対して、葵は冷徹な口調で話し始める。
「おい。先程貴様は何と言った?」
しかし、デズレリーは葵に向かって逆上した。
「き、貴様だと!! わたしは誇り高きブルベル帝国の伯爵だぞ!! そんなわたしに、アジアの小国の皇族ごときがその様な口をきいて良いと思っているのか!!」
ピキッッッッ!!!!
「ひッッ!!」
葵はデズレリーの達者な口を黙らせるために、もう一度覇気のスキルを発動させた。そして再び葵は冷徹な口調で話し始める。
「もう一度問う。先程貴様は何と言った?」
「き、貴殿をモンスター呼ばわりしたことか? あれは失言だった。謝る。謝るから許してくれ!!」
それを聴いて葵は更に声を荒げる。
「そんなくだらない事はどうでもいい!! 貴様、僕達の大切な仲間であるこのウミさんに何と言った?」
するとデズレリーは苦笑いをしながら答える。
「な、何!? この汚らわしい獣人の奴隷の事か!?」
「ウミさんは奴隷なんかじゃない!! 僕らの国には奴隷なんて居ないし、これからも永遠に居ない!! みな大切な仲間だ!!」
「我々の“物”を仲間とするとは、アジアの文化はかなり変わっているな」
少し落ち着いたのか、デズレリーは笑いながら皮肉を言ってきた。
これを聞いて、葵は拳を振り上げた。しかし、葵よりも先に、一二三がデズレリーの顔面を顔の形が変わる程の威力で殴った。
顔面を抑え苦しむデズレリーに向かって、一二三は高らかに言い放った。
「人間は物じゃねーーーー!! 姿、形が変わろうとも人は人だ。それに対して“物”という事こそ、野蛮な者がする事だ!! 大切な俺達の仲間を傷つける奴とは交渉出来ねぇ。帰らせてもらう!! いいですね? 葵姫殿下」
「えぇ。僕もそうしようと考えていたところです。野蛮な人達とは交渉できませんからね。感謝してくださいね。デズレリーさん。もしこの場に天皇陛下がいらっしゃれば、あなたの命はありませんでしたよ」
その場にいたウミちゃんは、自分のために大国の要人を殴り、更には何度も仲間だと言ってくれた事に対して感謝と喜びが溢れ、号泣していた。
二人はそれぞれ言葉を吐き捨てて、会議室から出ようとしたが、ウミちゃんは号泣して動く事が出来なかった。そんなウミちゃんに対して葵と一二三はウミちゃんの方に振り向いて手を伸ばした。
「ウミさん。泣いてないで、仲間達が待ってる家に帰りますよ」
「そうだぞ。ウミ。それに、ウミが泣いてたら天皇陛下に俺達が怒られちまう」
ウミちゃんは、涙を拭き、葵と一二三の手を取って走って会議室から飛び出した。
当然、アブデュル陛下は三人を止めようとしたが、仲介という立場上、デズレリーを放っておくわけにもいかなかった。
三人と護衛の近衛師団<桜>は急いで長門に乗船ししようとした時、メルテムさんが走ってやって来た。
「おーーーーい!!」
「「「メルテムさん!?」」」
「なぁ、わたしも連れてってくれ!! やっぱりあたしは大日本帝国と、君達が好きだ!! 祖国を裏切る形にはなるが、それだけの価値はある!!」
「ですが……」
「お願いします!!」
メルテムさんは深く頭を下げた。葵はこれを見て決心した。
「良いでしょう。付いて来たければお好きにどうぞ」
「ありがとうございます!!」
「って、そんなことより、急いで乗れ!!」
四人は急いで長門に乗り込むと、第一艦隊は直ぐにイスタンブールの港を出港した。スエズ運河で足止めを食らうかと思ったが、メルテムさんの影響力と、長門と陸奥の主砲を向けたら直ぐに通してくれた。
こうして、第一艦隊はスエズ運河を抜けた。
そして、葵と一二三とウミちゃんそしてメルテムさんは長門の指令室で少し話をしていた。
「あんな去り方で良かったのですか?」
「良いんですよ。あんな会談を準備した奴らなんて放っておくべきです」
「そうだそうだ。もし攻め込んできても、俺達なら何とかなるだろうよ!」
「しかし、すみません。せっかくオズメン帝国に来てくださったのにこんな嫌な思いをさせて帰してしまって……」
「いえ。いいんですよ。悪いのは殆どデズレリーの奴ですから」
「もう呼び捨てなんだな」
「あんな奴に敬称を付ける義理はありません!!」
「ハハハッ!! やっぱり君達は面白いな~。でも、ちゃんと国際的なマナーは覚えてくれよ。帰ったらあたしがみっちり訓練するからな!!」
「なんか、メルテムさん、口調がかなり砕けてません?」
「うん。だよな。俺も思った」
「ウミも」
「だって、あたし達仲間だろ?」
「ハハッ! そうでしたね。それじゃ~皆さん帰りましょうか。他の仲間達が待っている大日本帝国へ!」
「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!」」」」」」




