第参拾肆話 黒船来航
沖縄で戦闘が起こっていた頃、一二三率いる第一艦隊はバブ・エル・マンデブ海峡を越えようとしていた。因みに、インド沖で発見したブルベル帝国の艦隊はこちらを監視していただけで、極端に接近したり攻撃をしてくることは無かった。
第一艦隊はバブ・エル・マンデブ海峡越え、紅海に入りスエズ運河を越えようとした時、目の前に小さな船が現れ、その船の乗員が止まれの合図を出した。
一二三はオズメン帝国と、ブルベル帝国の捕虜を届けに来た事、そもそも自分達は何者なのかという事を伝えると、許可が下りるまでこの場で待機することになった。
その頃、オズメン帝国内ではとんでもない騒ぎになっていた。そりゃそうだ。だってブルベル帝国の蒸気船が最新鋭の技術で最強と言われる中、こちとらエンジンと対潜対空対艦性能と艦内のシステムと環境の改善という名の魔改造が施された戦艦。当然、この世界ではありえない代物だ。元の長門と陸奥でもこの世界の戦艦と打ち合って負けることは無いだろう。
オズメン帝国の住人はそんな化け物が突然現れたので、恐怖で混乱状態になっていた。それは、宮殿内も同じだった。
「陛下!! アブデュル陛下!!」
「どうした。そんなに慌てて」
「そ、それが。スエズ運河にとんでもない戦艦が現れ、通してくれと申しております」
「なんだと!! そもそもスエズ運河は各国との取り決めで、条約に加盟していない国の軍艦は通れないようになっているではないか! そんなの、認められるわけがない!」
「しかし、どうやら我が国とブルベル帝国の捕虜を連れているようでして。それもどちらも最近太平洋を航行中に行方不明になった艦艇の乗組員でして、艦長の海軍少佐メルテム=ユルマズも乗船していると連絡が入っております」
「それは真か?」
「海軍少佐メルテム=ユルマズのサイン入りで手紙が届いていますので、間違いないかと」
「ならば、各国への説明はわしが責任を持って行う。わしはみずしらずの国の者達を助けてくれた勇気ある者達に答えたい。それに、どのような面か、どのような国の者か見ておきたい」
「承知いたしました。では、そのむねを伝えてまいりますので、失礼いたします」
「待て。わしもその軍艦を見てみたい。港まで行ってよいか」
「しかし……」
「偶には良いではないか」
「分かりました。館長などはお招きしますので、陛下は近くの高台で見られてはどうでしょうか?」
「分かった。では馬車の用意もしてくれ」
「承知しました。では失礼いたします」
「極東の事件で未確認の軍艦か。一体全体東亜の者達はどんなハリボテを創ったのだろうか」
スエズ運河の通過の許可が下りた第一艦隊はイスタンブールの港に入港する際、音楽隊に偽装した第一近衛師団<桜>により軍艦行進曲が演奏され、第一艦隊は勇ましく、オズメン帝国の市民は恐怖におののき入港した。
高台から第一艦隊の長門と陸奥を見ていたオズメン帝国皇帝アブデュル陛下は腰を抜かし、家来達に肩を貸りながら急いで馬車に戻り、兵士達と兵器を大量に宮殿に呼び、立てこもった。
「陛下! しっかりしてください!」
「なんなんだあれは!! 敵意が無いとは言え、あんなのは正に異次元の兵器ではないか!! あのブルベル帝国の戦艦が極東で謎の戦艦にやられたと言っていたが、まさか奴らの事なのか、いやそうに違いない。ブルベル帝国の戦艦をいとも簡単に沈められる船など、正にあのような異次元の兵器でないと不可能だ」
「事実、ブルベル帝国の水兵達が捕虜になっております。恐らくその考察は間違いではないかと……」
「何と言う事だ。あの極東にそんな大国があったとは……」
「陛下。しっかりしてくだされ! かの者達が来ても、決して取り乱してはなりませんぞ」
「分かっておる。では、かの者達をこの宮殿へ招待してくれ」
「分かりました」
一二三と葵はイスタンブールに上陸すると、メルテムさんと共に皇帝の待つ宮殿へと向かった。
正直、港と宮殿の周辺は歓迎というよりは恐れる人や、警戒する兵士ばかりだった。三人は綺麗な庭を通り、謁見の間に通された。そこは白く広いドーム状の空間になっており、バルコニーから皇帝らしき人物が三人を見下ろしていた。
代表して、葵が真っ先に前に出る。
「僕の名前は白雪 葵と申します。この度は、我が姉であり、大日本帝国天皇白雪 葵姫陛下の代理として参りました。隣の彼は大日本帝国海軍大臣兼海軍大将の山本 一二三、こちらの彼女はわたしの付き人の様な者です。この度の、スエズ運河の通航の許可に加え、このような美しい宮殿にお招きいただき、ありがとうございます」
「わしはオズメン帝国皇帝アブデュル=オズメン。我が国民を救ってくれた貴殿らの勇気と仁義に心から感謝いたす。ところで、失礼なことを聞くが貴殿らの国はどこにあり、どのような国なのだ?」
葵は我が国の事と、沖縄戦で何が起こった言える範囲事、つまり銃を駆使してブルベル帝国軍を打ち負かしたという事にして、アブデュル陛下に伝えた。
その時アブデュル陛下の顔は少し青ざめていた。
「まさか貴殿らがあのブルベル帝国軍を打ち負かすとは……」
「その件もあって、ブルベル帝国の方と会談をしたいと考えております。その席を設けていただく事は可能でしょうか?」
「できるかどうかは分からんが、やれるだけの事はやってみよう。長い船旅で疲れただろう。詳しい話は明日にして、もう本日はお休みになられてはどうか?」
「ええ。そうさせていただきます。それと、もう一つお願いがありまして」
「何だろうか?」
「僕がこの国に滞在している間はメルテムさんに護衛をたのみたいのですがよろしいでしょうか?」
「勿論だ。好きに使ってくだされ」
「まだしばらくよろしくお願いしますね。メルテムさん」
「勿論です」
こうして、葵達の航海は一旦終了した。しかし、彼らはまだ、より複雑な事に巻き込まれる事を知らない。




