第弐話 野望ノ始マリ
わたし達は村のみんなが寝静まった頃、女子部屋に全員集合した。
部屋は六畳くらいで、カーテンを閉め切った窓と、ランプ、木製の椅子が二つと、二段ベッドが二つあった。
わたしは椅子をみんなの正面において座わると、アルゴさんから教えてもらったことをみんなに伝えた。
かなり重い雰囲気になったが、わたしはみんなにスキルの有無について聞いた。
「突然だけど、わたしみんなに聞きたいことがあるんだ。
わたしには、スキルがあるんだけど、内容はこんな感じで、みんなにはある?」
わたしはスキルの内容を話し終えると、一二三が一番に答えた。
「あぁ。
俺は『大東亜ノ将軍』ってスキルで、内容は思念伝達、暗視、望遠、翻訳、思考加速、身体強化って感じだな」
「わたしのをもっとシンプルにして、戦いに特化した感じか。
他のみんなはどんな感じ?」
すると、全員息をそろえて答えた。
「「「「「「一緒」」」」」」
どうやらわたしは特別らしい。
だが、あの量のスキルを一人で使いこなすのは難しい。
だからわたしは一つの案を思いついた。
「みんなに一つ提案があるんだけど、わたしこんなにスキルがあっても絶対使いこなせないと思うんだ」
すると、腹が立つことに全員声を揃えて答えた。
「「「「「「「うん。
でしょうね」」」」」」」
「酷くない!?」
すると、葵が鋭い指摘を入れる。
「だってあのドジな姉さんがそんな重役スキルの数々を使いこなせるとは正直思えません」
それを聞いてわたしは、椅子から崩れ落ちてしまった。
「まぁ、分かってる。
分かってるよ。
悔しいけど……、分かってるよ。
だから、わたしのスキル、スキル譲渡でこの中の二人に武器製造と造船を渡そうと思ってね。
それで、誰に渡すかなんだけど……」
みんなはここで、間違いなく、わたしがいつも贔屓にしている弟の葵と、幼馴染の友美ちゃんに任せると思っただろう。
しかし、わたしが選んだ人物は少し違っていた。
「武器製造を、友美ちゃんに、造船を一二三に任せようと思う」
すると、今村さんが驚き、戸惑いながら聞いてきた。
「い、今なんておっしゃったのでありますか?」
わたしはさも当然のように答えた。
「だから、武器製造を、友美ちゃんに」
「はい。
そこまでは理解できるのであります……」
「で、造船を一二三に……」
「そこであります!何故ひふみんなのでありますか!?そこは白雪先輩が大好きな葵殿ではないのでありますか!?」
すると、わたし以外の一二三までも頷いた。
「確かに葵の線も考えたけど、知識量を考えると、一二三の方が適正だと思ったの」
「姉さんもそんな事考えるんですね」
「当たり前だよ!でも、わたしは葵が一番なのは変わらないからね!」
「いや。
それは正直どうでもいいです」
わたしはまた椅子から崩れ落ちた。
すると、このだらだらした会議を進める為に、有賀さんが入り込んだ。
「それで、今後の方針としてはどないしますん?得体も知れない異世界に吹っ飛ばされて、しかも助けてもらった村は破滅の危機ってさっき聞きましたし、そもそもどないして元の世界に戻んのか。
課題は山積みでっせ」
そこはわたしが答える。
「どうやって戻るのかはわたしも分からない。
だからもっと情報がいる。
情報を集めるにはわたし達がなるべく大きな団体になった方がいい。
そこそれで私は、この村を攻めようとしている村を倒した後、日ノ本の帝国の復活を宣言する!」
すると、牛島さんが慌てて入ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってください!なんとなく何を復活させようとしているのかわかりますけど、元の様な領土もありませんし、そもそも天皇はどうするんですか!?」
栗林君が割って入る。
「満月。
天皇はもう決まってる……」
友美ちゃんが代表して名前を言った。
「そうね。
天皇は葵姫、あなたに任せる。
でも、牛島さんの言う通り領土はどうするの?」
そこそれで私はニヤニヤしながら、アルゴさんの家の去り際にアルゴさんからもらった地図を出した。
そこにはなんと、明らかに元の世界の南アジア、東南アジアをそのまま映した様な、大陸や、島がそっくりそのまま描かれてあった。
それを見た瞬間、わたし以外の全員が口をポカンと開けていた。
そこに今村さんが顔を引きずりながら、空いた口を動かす。
「も、もしかして……」
「うん。
この地図に描いてある島々から推測するに、地理的条件は殆ど元の世界と同じ。
しかもこの地図の上にはまだ未開拓の島があるらしい。
更に更に、今わたし達が居るのはこの元の世界の台湾に当たる場所。
ということは……」
ここで一二三にいいとこを取られた。
「この地図の上に元の日本列島みたいな島があるってことか!」
「そう!しかも、何人かこの地図の上方向に行って、帰ってきた人がいたらしいんだけど、まだ西の帝国の侵略は受けてないらしい」
葵が鋭い質問を飛ばす。
「でも、それだったら他の国が死ぬ物狂いで侵略する気がしますが……」
「それがね。
アルゴさんによると、大国はみんなこの地図に載ってる地域を急速に占領したために、この地域を統治するので手がいっぱいか、海軍力不足や、隣国とのにらみ合いや戦争で忙しいらしくて、最近は一つの国の開拓使しか新天地を探していないらしい」
「なるほど、それだったら、その国に先を越されない限りいけますね!」
「うん。
だから、一二三には急いで船を作ってもらって、その間に我々でもう一つの村を潰す」
みんなは頷きあって、今後の方針は決定した。
「みんな、一つルールを新しく決めたいんだけど、これからはみんな下の名前で呼び合うこと!今のままだとなんか距離感があるからね」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
それで今夜の会議は解散となった。
わたしは終了次第、友美ちゃんと一二三を裏に呼び出した。
「では、今からわたしのスキルを譲渡するけど、これはわたしの側近になるってことでもあるけど、いいね?」
「ああ。
当たり前だ!未来の天皇陛下」
「ええ。
あたしは元から葵姫について行くつもりだったけどね!未来の天皇陛下!」
わたし達三人はその時必死に大笑いしないように抑え込んだ。
でも、抑えきれずにくすくすと笑いがこみあげてしまった。
ここからわたし達の野望が始まろうとしている。