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第弐拾話 飯

 わたし達は料理ができるまで艦長室で女の子を寝かせつつ、見張ることにした。しかし、そんなことを兵士達が易々と了承してくれるわけがなかった。


大日本帝国(ダイヤマトテイコク)の重役の皆様にこの様な危険な仕事をさせるわけにはいきません。見張りは我々に任せて、お寛ぎください」


 そこで一二三が冷たい目線を兵士達に向ける。


「お前らに任せるのか? 俺はお前達にこの子の見張りも命令したはずだ。それでこう言った事になっているのだがな。もう一度聞く。子供を見張るだけの簡単な仕事も出来んお前らにこの子を再び任せればいいのか?」


「「「「ッ……!」」」」


 一人の兵士が一歩前に出て敬礼をしながら言った。


「もう一度、もう一度お任せください。今度は一切油断いたしません」


 一二三は笑いながら答えた。


「折れない奴は嫌いじゃない。だがな、こいつは俺達が拾って来たんだ。ちょっとくらい俺達に面倒見させてくれ」


 かっこつける一二三に友美ちゃんがつっこみをいれる。


「でも、一二三、あんたは最初部下達に任せっきりにしたじゃない」


「うるさい! 危篤状態だったから、あんまり医療班の邪魔にならないように任せてたんだ」


「へ~」


「つっこんどいて放置はやめろ!」


 また喧嘩が始まりそうだったので、くすくす笑っているわたしが会話を引き継ぐ。


「そういう事だから、この子はわたし達に任せておいて、怪我人の手当てや他の仕事をしておいて」


「承知しました。それと、烹炊班からの伝言なのですが、『お食事は何かご希望はありますでしょうか?』とのことです。いかがいたしましょう?」


「俺は、いつも通り、兵士達と同じ釜の飯を同じ食堂で食べる」


「あたしも、そうして」


「わたしも、みんなと一緒のご飯をみんなと一緒に食べたい」


 すると、兵士は驚きの感情をあらわにしていた。


「艦長はいつも通りですが……。山下陸軍大臣や、天皇陛下までも……。よろしいのですか?」


「うん。わたしは玉座にふんぞり返ってみんなを見下すのは性に合わなくてね。みんなと同じ目線でいたいんだ。その方が国民の事がよく分かるし、国民の為の国ができると思わないかい?」


 兵士は少し困惑した後、ハンカチで目を拭いて答えた。


「天皇陛下のご思想に感銘いたしました。承知しました。それでは烹炊班にその旨を伝えてまいります」


「分かった。全員だよ。全員分同じご飯を作るように伝えてね」


「承知しました。では、失礼いたします」


 兵士が艦長室から出ていくと、わたし達は一気に気が抜け、だらけた感じになった。わたし達が少し休んでいると、女の子が起きた。


「お! 起きた? ちょっと待ってね。もう直ぐご飯ができると思うから」


「……」


 暴れることは無かったが、まだ警戒はしているようだ。すると良いタイミングで、兵士が呼びに来た。


「失礼します。お食事の用意が出来ました」


「お~。丁度良かった。この子も今起きたところだ。よし、行くか」


「立てる?」


 わたしが手を差し出すと、手を振り払って、自分で立とうとした。しかし、力が上手く入らないようで崩れ落ちてしまった。わたしはもう一度、手を差し出した。


「も~、さっきあんなに無理するからだよ」


 女の子は黙ってわたしの手を取ると、生まれたての小鹿の様に立った。

 わたし達は食堂に移動すると席に案内された。わたし達の分は既によそってあった。


「おい。いつもよそぐところからやると言っているだろう」


「何度も言いますが、兵士達が緊張してしまうんです。ですから、これで勘弁してください」


「そんなの慣れろ」


「無茶ですよ……」


 そんな事よりも、わたしには少し気になることがあった。女の子の食事が無いのだ。


「ねえ。この子の食事も準備してもらってもいい?」


「は、はい。承知しました」


 そして兵士が慌てて厨房の方へ行くと、何やら厨房の方が騒がしくなった。しばらくすると、申し訳なさそうな顔をした兵士が料理を持って戻ってきた。


「すみません。烹炊班がこの子にはこれしか出さないと……」


 この子の前に置かれた料理は残飯の盛り合わせだった。


「貴様、舐めているのか?」


 その瞬間、わたしは無意識に皇帝覇気を発動させた。


ピキッ!!


「ひッ! いえ! そのようなことは決してありません!」


「さっさとこれを作った奴と、烹炊班班長を呼んで来い」


「は、はい!」


 兵士は慌てて厨房に入って行った。怒りであまり見えなかったが、食堂に居た兵士の殆どは顔を真っ青にし、新人達はその場に倒れこみ、嘔吐していた。その中で、まじかに受けつつも、耐えていた一二三と友美ちゃんは流石だと思った。

 だが、幸いな事に無意識ながらも、女の子は覇気の対象にしていなかった。

 兵士が厨房に入って直ぐに、二人組が出てきた。その二人組はわたしの皇帝覇気のプレッシャーに耐えつつ、なんとかわたしの前に来た。だが、部下の方はほぼ意識が無かった。


「わたくしが烹炊班班長で、こいつがこの料理を作った者です」


「貴様ら。わたしを舐めているのか?」


「いえ。そのようなことはありません」


「では何故、このような物を出した? わたしは“全員”同じ食事を出すように言ったはずだ」


「ですが、所詮こやつは異種族ですし、仲間を傷つけた張本人ですのでこれで良いと判断致しました」


「なるほど。では、降りろ」


「今なんと?」


 わたしは拳をテーブルに打ち付けた。


「降りろって言ってんだよ!!」


「この獣人に言っているのですよね?」


 わたしの皇帝覇気はこの瞬間無意識のうちに強まった。その場にいた兵士の殆どは泡を吹いて倒れた。しかし、私の目の前にいる二人だけはギリギリ立たせていた。


ピキキッッ!!


「貴様は馬鹿なのか? 貴様らに言っている。わたしの理想の国には、人種差別など存在しない。さっさと消え失せろ」


 わたしがそう言い捨てた瞬間、わたしの目の前にいた二人も他の兵士達と同じように泡を吹いて倒れた。わたしは皇帝覇気を解除したが、両脇を見ると一二三と友美ちゃんは顔を真っ青にしていた。女の子はというと、わたしのことをくりくりとした目で、不思議そうに見ていた。

 わたしは両脇に居た二人に声をかけた。


「ちょっと、二人共! 顔青くして大丈夫?」


「すまん。葵姫。ちょっと、横にならせてくれ。お前、かっこよかったぜ……」


バタンッ!!


「ごめん葵姫。わたしも、ちょっと横になる。葵姫の事、尊敬するよ……」


バタンッ!!


 なんと、スキルで強化されている二人まで気絶してしまった。わたしはこの時、皇帝覇気の調節にはかなり気を付けようと思った。

 わたしは二人を余っていたベンチに寝かせて、わたしの横の席を開けた。わたしは横の席を叩きながら、佇んでいる女の子に言った。


「おいで。一緒にわたしのご飯食べよ」


「ウミ……」


 なんと例の子が可愛らしい声で話し始めた。


「ウミの名前。ウミ」


「そうか。ウミちゃんって言うのか」


「うん」


「ウミちゃん。一緒に食べよ。おいで」


「うん」


 ウミちゃんはさっきので心を開いてくれたのか、警戒なんて微塵もせずにわたしの横の席に座った。わたしが食事をウミちゃんの前にずらすと、ウミちゃんはスプーンを握りしめながら黙々と食べ始めた。

 ウミちゃんはあっという間に食べ終わってしまったので、一二三の分も前にずらすと、戸惑っていた。


「食べていいの? お姉さん食べてないのに……」


「お姉さんはいいんだ。ちょっと、周りが周りだから食欲がない」


 冷静になって周りを見れば、泡を吹いて倒れている人と、嘔吐物まみれでそれどころではない……。しかし、ウミちゃんはそのサファイアの様な青い純粋な瞳で、わたしをしばらく見つめると、また黙々と食べ始めた。

 わたしはテーブルに肘をつき、ウミちゃんを見ながら話し始めた。


「ウミちゃん」


 ウミちゃんは食べながらだが返してくれた。


「何?」


「わたし。葵姫っていうんだ。白雪 葵姫」


「葵姫お姉ちゃん?」


「ウミちゃん。ウミちゃんはどこから来たの?」


「ここからずーと遠くのとこ。海に出たら、嵐に巻き込まれた」


「そうか。大変だったね。でももう大丈夫だから。それに、元の場所に戻してあげるよ」


「ありがとう」


 わたしはウミちゃんの方に体を向けてまた話し出した。


「ねえ、ウミちゃん。元の場所に戻るまで、家来ない?」


「ん?」


「わたしの部下になってよ。鍛えれば戦闘力は高そうだし、ボディーガード的な感じでさ、どう?」


「ごはん貰える?」


「勿論」


「じゃ~葵姫お姉ちゃんの部下になる!」


「分かった。じゃ~これからよろしくね。ウミちゃん」


「うん!!」


 この時、ウミちゃんは満面の笑みを浮かべた。

 守りたい。この笑顔……。

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