第拾壱話 メルテム
ドレスを選んだ日から六日後、わたしが事務室で少し休んでいると、廊下を走る音が聞こえた。
トントン。
すると、かなり慌てた様子の葵が事務室に飛び込んできた。そしてそのまま息の切れた様子で報告を始めた。
「失礼します!! 姉さん大変です!! 救出した方々が混乱からなのか、一部の方々が暴れており、怪我人も複数名出ております。今は周囲の警備に当たっていた兵士達が取り押さえようとしているところですが、暴れている方々と混戦になっているとのことです」
「分かった。今すぐ応援を送らせて! わたしも現場に向かう」
「姉さんが!? 危険です!」
「大丈夫だよ! わたしって意外と強いから!」
「大丈夫じゃないですよ! 今アルナさんが鎮圧に向かっているので、姉さんはここで報告を待ってください!」
ピキッッッッ!!!!
その時、葵の背筋は凍り付くように感じ、意識も飛びかけた。更に、清掃をしていたメイドさんに関しては、泡を吹いて倒れていた。
葵の目の前には、紅の瞳を持った皇帝が葵を睨みつけて鎮座していた。
「流石葵~。やっぱり耐えたか」
「な、なんですか? 今の……?」
「わたしのスキル、皇帝覇気だよ。試験も兼ねて、これで黙らせに行く」
「わ、分かりました。ですが、勿論護衛はつけさせてもらいます」
「分かったよ~」
わたしは馬で急ぎ現場に向かった。すると、葵の報告通り、暴れている者と、それを抑える者でいり乱れていた。そこには既にアルナさんの姿も見えた。わたしはこの怪我人ばかりが増えてゆくこの無意味な騒動に、嫌気がさした。
ピキッッッッ!!!!
その瞬間に暴れていた人達は泡を吹いて倒れた。それを見て、その人達を抑えていた人達は訳も分からず、唖然としていた。
「やっぱり調整が難しいな~。でもまだ対象を選べてるだけましかな」
わたしが声を発した瞬間にみんなはわたしの方を向いた。その瞬間うちの兵士達が歓喜の声を上げた。その後にはわたしの名前のコールまで起きている。わたしがおどおどしていると、アルナさんがわたしに近づいて来て、跪いた。
「陛下、直々に対処に来てくださり、ありがとうございました」
「いや。国民が困ってたら女王が対処するなんて当たり前でしょ? それに、船員の中から誰か一人を皇居に招いて話を聞きたかったし」
「それなら、船長がいらっしゃいます。わたしが皇居までお連れしますので、陛下はお先に戻っていてください」
「分かった。じゃ~よろしくね」
わたしは、みんなに手を振られながら、その場を後にした。
それからしばらくして、わたしが自分の事務室で待っていると、扉をノックする音が聞こえた。
「陸軍少将アルナ=イゲイナです。先程お伝えした船長をお連れしました」
「どうぞ、入ってください」
「失礼します」
アルナさんが連れてきたのはボーイッシュな女性だった。その女性は赤髪のショートボブで、左目には眼帯を付けており、右目はつり目で瞳の色は青色だ。しかも、引き締まった体つきで、スタイルも抜群だ。
「よろしくお願いします。わたしはオズメン帝国海軍少佐メルテム=ユルマズと申します。改めて、船員達を助けていただき、ありがとうございました」
オズメン帝国って、いよいよエルトゥールル号パロディじゃん……。
「わたしは、この日本王国の女王、白雪 葵姫といいます。人の命は尊重すべきですから、我々は当然の事をしたです。それに勿論、皆さんは本国に送り届けます。ですが……」
「ですが?」
「その前に、三つの事をお願いしたいのです」
「内容にもよりますが、命の恩人の頼み事ならどんとこいです!!」
「良かった。まず一つ目は、オズメン帝国の文化や技術を我々にも教えてほしい。二つ目は、一週間後に完成する港と、艦船の感想を聞きたい。三つ目は、オズメン帝国との国交を行えるように後押しして欲しい」
「それだけの事なら任せてください!」
「では、よろしくお願いします。それと、一つ聞きたいことがあるのですが、貴方達はこの海に植民地は持っていますか? もしくは持つ予定ですか?」
「いえ。わたし達はそのような物は持っていません。この海を支配しているのはオルン王国、ホルス帝国、スペル王国、ポルスガル海上帝国そして、最強の海軍を持つと言われるブルベル帝国です」
「その国々はここより北にも進出していますか?」
「いえ。何度か進出しようとしたそうですが、先住民が強すぎて、とても敵わなかったそうです」
「そんなに強いのですか?」
「はい。なんせ、奴隷界で最強と言われる"獣人”ですから。それが束になって襲ってきたと考えると、そこらの軍隊では敵わないでしょうね」
わたしは、獣人がいることに驚いたが、舐められてはいけないのでぐっと表情に出すのをこらえた。
「なるほど。でも、先程の国々は相当強い軍隊と、艦艇を持っているのでしょう?」
「はい。我々でも数を揃えられていないマスケット銃や、石炭で動く船なども保有しているそうです」
「有意義な情報をありがとうございました。これで我々はもう盟友です。気軽にいつも通り話してください。どうも話しにくそうですから」
「そうか? ありがとよ! シラユキ女王陛下!」
「下の名前が葵姫だから、葵姫と呼んでください」
「そうなのか? 変わった文化だな。分かったぜ! アキ女王陛下!」
「そうだ! 良ければ、ワインでも飲んで行きませんか? 良い物が手に入ったんです」
「お~!! あたしは酒には目が無くてね~! 喜んで頂くよ!」
「アルナさんもどうですか?」
「いえ。申し訳ありませんが、遠慮させてください。わたしは、娘のサガの事もあるので、祝い事以外、お酒は飲まないようにしているのです」
「分かりました。では、ブドウジュースでもお出ししましょう」
「ありがとうございます」
わたしは、思念伝達で、葵にワインと、ブドウジュースを持ってくるように伝えると、直ぐに持ってきてくれた。
トントン。
「失礼します。これはアルナ殿、お久しぶりです。もう一人の方は初めましてですね。僕は白雪 葵。陛下の弟にあたります」
その瞬間メルテムさんは座っていたソファーから驚いたように瞬時に立った。
「女王様の弟って事は、王子様がどうしてこんな雑用を!?」
「あはは……。親愛なる姉さまの頼みですので。それに、僕が傍にいないと心配ですから」
「凄いな~。尊敬するぜ……」
そう言うと、メルテムさんはワインを一気に飲み干した。すると、急に目つきが悪くなり、話し始めた。
「ほんとによ~! 助けてくれてありがとな~!!」
「あ。はい」
「ほんとに、ほんとにありがとなーーーーーー!!」
遂には泣き出してしまった。しまった! この人、お酒飲んだらダメなタイプだ!!
「なんか熱いな~!!」
そう言いながらなんと、メルテムさんは服を脱ぎだした。それをわたしと、アルナさんで飛びついて止め、葵は顔を真っ赤にしながら目をそらしていた。
「止めるんじゃね~! 熱いんだよ!!」
「「脱ぐなーーーーーーーーーー!!」」
なんだか変な協力者を手に入れてしまったが、実力は確かだろうから、良しとしよう。




