優男
「ただいま」
「おかえり、なんか疲れてるけどどうしたの?」
「それが、急に葵が走ろうよとか言って走る羽目になって、死ぬかと思ったんだよね。」
「相変わらずね、葵ちゃんは」
ヘトヘトになりながら手を洗ってリビングに入るとお母さんが夜ご飯の最後と仕上げを をしていた。
「お!この匂いはビーフシチューですね?」
「ブッブー、正解はポークシチューでした。」
母親とそんな会話をしていると二階から紬のお兄ちゃんこと如月亮がおりてきた。紬とは二つ歳が違うが結構仲がいい。高校は別の学校で、背は高く、ピアスを開けていて、私は思わないが、他人から見るとイケてるメンズに入るらしい。
「あ、帰ってきたんだ。おかえり。」
「ただいま。そういえばお兄ちゃん。匠先輩が帰ってきてるの知ってた?」
「そういえば、そんな連絡あったなー。」
「早く言ってよ!今日匠先輩見てびっくりしたんだから。」
夜ご飯を食べ終わると、紬はソファーに寝転んだ。兄はご飯を食べた後に2階に行ったが降りてきて、紬に頼み事をした。
「紬、コンビニ行って○ャンプ買ってきて。」
「そんなの自分でかいなよ」
紬は行く気なしですという態度をしながらスマホをいじった。
「残ったお金で——」
「行ってきまーす。」
紬は兄が全部言い終わる前に家からでてコンビニ向かった。
「アイスー、アイスー、冷たいアイスー」紬は歌いながら家の近くのコンビニへ向かった。
お兄ちゃんに頼まれていたものと自分が欲しいものを買い、紬はコンビニを出て歩いていると、誰かにぶつかり、尻もちした。
「すみません。」
「いえ、こちらこそ。」相手の人が手を差し伸ばしてくれ、その手を掴んで顔を上げると、そこには匠先輩がいた。会うのが久しぶりなので、少し困惑していた。
「こんばんは?」
「こんばんは」
匠先輩はクスリと笑った。
「久しぶりだね、まさか同じ学校だとは思わなかったよ。」
「気づいていたんですか?」
「この前学校行く時に見かけてね。紬ちゃんが気づくまで黙って驚かせようと思ってたんだ。」
「本当にびっくりしたんですからね!まさか戻ってきてるって知らなくて。しかも同じ高校で。今日のお昼に見かけてびっくりしました!キングだなんてすごいです!」
「あー、なんかそんなふうに呼ばれてるね、恥ずかしい。でも、戻ってきたことは、亮に連絡したんだけど——」
「なんか、忘れてたっぽくて」
「亮らしいね。」そ
「いつ頃戻ってきたんですか?」
「つい最近だよ。1ヶ月前ぐらいかな?」
「そういえば、こんな時間にどうしたの?女の子がこんな時間に一人は危ないよ?」
匠先輩は仕草が優しい大人感が出ていて、兄貴よりお兄ちゃんらしくて、本当に優しい。今も歩きながら話そうかっていいながら、さりげなく車が走っている道をあるいてくれている。
「私はお兄ちゃんに頼まれたのを買いにコンビニへ。匠先輩は?」
「バイト帰りなんだ。」
「そうなんですね!今はどこに住んでいるですか?」
「今は、あそこの家」
そう言いながら指差した家は私の家から五分くらいのところで、豪邸と呼ばれる家だった。
しかし、ネームプレートを見ると以前の苗字とは変わっていた。
「でか!でも、名前が」
「あ、うち親が離婚して母親と二人暮らしになったんだけど、再婚して、水野から一ノ瀬になったんだよ。」
「そうなんですね。私知らなくて、すみません。」
「全然大丈夫だよ。言わなかったこっちも悪いから。」
優しすぎる。こんな時間にコンビニ行って買ってこいなんて言ううちの兄と同い年で遊んでたのになんでこんなにも違うんだろうか。育ち方?遺伝か。今度匠先輩にお願いして、爪の垢もらおうかな……あなたはもしかして神様の生まれ変わりなのでしょうか?
「本当にここまででいいの?どうせなら家まで送るよ?」
「いえ!大丈夫です!すぐそこですし」
それにこのまま一緒にいたら私の歪んだ心がバレてしまいそうで。
「そお?じゃー気をつけてね。今日は会えて良かったよ。また明日。」
「はい![#「!」は縦中横]こちらこそ良かったです![#「!」は縦中横]それじゃ。」
紬は自分の家の方へ歩いて行った。
「ただいま」
「おかえり〜」
「◯ャンプありがとう。」
「いえ〜」
紬は自分の靴を脱いでリビングに行き、さっき匠先輩に会ったことを話した。」
「さっきさ、匠先輩とあってさ、びっくりしたんだよね。」
「へぇーどうだった?」
「昔と変わらなかったよ。優しくて、紳士的だった。離婚のこと知ってた?」
「あー、まぁな。連絡は取り合ってたし。そのことでちょっと荒れてたらしいし。」
「そうなんだ。想像できないな。紬は靴を脱ぐと急いで冷蔵庫に行き、アイスを入れた。
「ただいま戻りました。」
「匠、遅かったじゃない」
「ちょっと塾が伸びちゃって。」
「夜は危ないんだから、気をつけてね。」
「はい。お母さん今日テストでさ——」
「うわーん、ままー。隼人が私のおもちゃとった。」小2ぐらい女の子が母の元に走ってきて、母の足を掴んだ。
「違うよ。ゆきが僕の壊したんだ。」
「全く。仲良くしなさいって言ってるでしょ。」
「ごめんね。匠。後でもいい?」少し暗い顔をしたがすぐいつもの笑顔になり、答えた。
「大丈夫だよ。早く言ってきな。」母と娘がいなくなると、匠はさっきの笑顔とは逆の顔になった。