再会した幼馴染は女の子になってました
初投稿です。不慣れなため、おかしなところ等ありましたら、申し訳ありません。
凛は友達だ。これからもずっとそうだ。
だけど、私はどうしても、時の流れの惨酷さを思わずにいられない。
……そして、ちょっとだけ恨まずにはいられないのだ。
◇
小学校の頃のアルバムをめくれば、家族の写真と同じくらいに、〝おとなりの凛ちゃん〟との写真が目に入る。この頃の凛は髪も短くて、スカートが嫌いで、男の子みたいな見た目だった。
母親同士が友達で、私と凛はいつも一緒に遊んでいたのだけど、小学校の卒業と同時に凛は隣町に引っ越してしまって、中学は別々になってしまった。
「はーっ」
とため息をついてベットに倒れこめば、壁にかかった真新しい制服が目に入る。明るいグレーのブレザーにチェックのスカート、そこに自分で選んだ紺のベストを合わせている。
なにをかくそう明日は高校の入学式。これから始まる新しい生活への期待も不安もある。そんなタイミングで小学校の頃のアルバムを引っ張り出しているのには理由があった。
明日から私は、三年ぶりに凛と同じ学校に通うことになるのだ。
◇
鏡の前で、前髪をチェックする。色が茶色がかっているのは生まれつきで、特に染めたりしているわけではない。リボンよし、ブレザーよし、スカート丈よし。校則違反の検査とは違う基準で、だけど同じくらい厳しく、自分の身だしなみを点検する。
完璧……のはずだけど、何故だか不安になってしまう。
「美月ー、そろそろ行かないと、凛ちゃんと待ち合わせてるんでしょー?」
お母さんの声。時計を見れば確かに、そろそろ出ないとまずい。
「行ってきまーす」
黒のローファーに足を差し込んで家を出る。
幼馴染、それも同性の、に会うのに何をそんなに、と思われそうだけど、私にもいろいろあるのだ。
……言ってしまうと、私の初恋は凛だった。
男の子みたいな服装ばかりしていた凛はお馬鹿な男子達と違って格好よかったし、それに、茶色い髪のせいでいじめられてた私をいつも助けてくれた。
そんなこともあって、幼稚園の時には「おおきくなったらおよめさんにして」もらう約束をしたこともあった。
……凛は覚えていないだろうけど。
どうして覚えていないと思うのかといえば、それは本人を見ていただくのが一番わかりやすいと思う。
昔から、凛はまず待ち合わせに遅刻しない子だった。いつも十五分前には待ち合わせ場所にいる習慣は、三日前に再会した時にも変わっていなかった。だから、今日もきっともう来ているはず。
ほら――
◇
丁字路の脇に一人たたずむ小柄な姿。舞い落ちる桜の花びらと同じ色のカーディガンがブレザーから覗いている。そこから少しだけのぞく丈の短いスカート。
長い髪を二つにくくった髪型は高校生にしては子供っぽい。だけど小学校のころから成長が止まったみたいな背丈には似合っていた。
クリッとした目が私に気付くと、全身で嬉しさを表現するみたいに手を振る。
「ミキちゃん、おっはよー!」
駆け寄ってくる凛に「おはよ」と返した。
ミキちゃんというのは私のことだ。美月→ミッキ→ミキという変遷を辿って現在に至っている。
小学校から成長が止まったみたいなというのは、実のところかなり事実で、昔は私より背が高かったのに、今ではすっかり見下ろす感じになってしまった。
「一緒に学校いくの三年ぶりだね!」
一緒に登校するのは三年ぶりだけど、会うのは三日ぶりだ。三年ぶりの再会の方は三日前に済ませている。
三日前の朝も今日の朝と同じくらい、いやそれ以上に入念に準備をして、私は待ち合わせの場所に向かった。子供のころの結婚の約束を今も本気にしているわけではないけど、私にとって凛が初恋の王子様だったことに変わりはなかったのだ。
それが、私よりも背が低くて、服が全体にピンクで、スカートで、百メートル先から見ても女の子でしかありえない髪型で……私は約束の場所に辿りついて、凛の目の前までやってきても、それが自分の婚約者(仮)だと気づかなかった。
今思えばおかしかったのだ。SNSでも連絡を取り合っていたけど、凛は自分の写真をアップしたことが一度もなかった。
そんな再会の衝撃は今も覚めていないのだけど、それでも凛は凛だ。
同じ中学にいった小学校時代の友達の中には、ほとんど話さなくなった子もたくさんいる。そんな中で別の中学にいったのにずっと連絡を取り合っていたのだから、凛が私の大切な友達なことにかわりはなかった。
……ただ、最初の話に戻ると、今の女の子女の子した様子から言って、凛は私をおよめさんにしてくれるといったこととかは忘れてるんだろうなーとは思うのである。
◇
入学式は体育館で行われた。
出席番号順に二列で並ぶと、私達、上森凛と茅原美月は隣同士になる。
入学初日ということで校長先生の話とかも一応は真面目に聞いていたのだけど、同じような話が続くと、だんだんぼーっとしてきてしまう。
そろそろ頭が夢の世界に旅立とうとしたあたりで、
「新入生代表、上森凛」
どこかで聞いた名前と思う間もなく、私の隣で「はい!」という声がした。
「ちょっと行ってくるね」
「え?」
呆けた返事をする私を置いて、凛は壇上に上がっていってしまった。
新入生代表? 凛が?
新入生代表というと、入試で一番成績が良かった子が選ばれるという噂だけど、凛が??
夢の世界から未だ帰還を果たせない私をよそに、壇上の凛は立派に新入生代表の挨拶を述べていた。
凛が戻ってきて、いろいろ聞きたいことはあったけど、まだ入学式の途中なのでおしゃべりを始めるわけにもいかない。その後の先輩の挨拶とかはまったく頭に入ってこなかった。
式が終わって、ぞろぞろと教室に戻る段になって、私はようやく凛に話しかける。
「……凛、成績、よかったんだ?」
「勉強したからねー」
頑張って勉強したとは聞いていたけど、うちの高校はそれなりに進学校だから、入学するために頑張ったということだと思っていた。
「え、どうしたの? 何かあったの?」
「ふっふっふー、わたし達の野望のため、かな?」
私の心配というか疑問をよそに、凛はそう言ってニカッと笑った。
……わたし、達?
◇
「みーきちゃん、帰ろ」
放課後、凛が席にやってきた。
二人で教室を出ながら、凛は変わったなと思う。
いや、いろいろ変わりすぎてて、どこのことだって話なんだけど。今言いたいのは明るくなったということだ。小学校のころの凛は口数がそんなに多くなかった。……それがボーイッシュな雰囲気と相まってかっこよくもあったんだけど。
「ミキちゃんは、部活やるの?」
「うーん、まだ考えてない。見学してみて、気になるところあったらかな。凛は?」
「まだわからないけど、中学の先輩に誘われてて、生徒会の手伝いするかも」
生徒会。またも思ってもみなかった答えが返ってきた。これも、〝野望〟の一環なんだろうか。
考えていても仕方がないので、「そういえばさ」と切り出した。
「野望って何のこと?」
「ん? 小さかった頃に、約束したでしょ?」
何を当たり前のことをという表情だけど、何のことかわからない。
そんな顔の私を見ると、凛は口と眉毛をへの字に曲げた。それから空を見上げると、
「忘れちゃってたかー」
とこぼした。
いや、忘れてるのはそっちやろ。
「うーん、昔さ、ミキちゃん、わたしのお嫁さんになるって言ってたじゃない?」
「あれ? うん」
忘れて、なかったの?
「あれ? 覚えてるの?」
「こっちの台詞だけど、うん」
「あ、そっか。あのですね、美月ちゃん」
物わかりの悪い子供に言い聞かせるみたいな口調だった。うん、ちょっとうざい。
「今の日本の法律では、女の子と女の子は結婚できないのですよ」
「……いや、はい」
それくらいは知っている。
「男性の結婚は十八歳から、女性は十六歳から、つまり、高校一年になればミキちゃんと結婚できるってことだよね! って、お兄ちゃんに言ったらね」
凛のお兄さんは豪くんといって、私も小さい頃、遊んでもらったりしたことがある。真面目で優しいお兄さんだ。私の記憶では似た者兄妹な感じだったけど、いつの間にか真面目な兄とポンコツな妹になってしまっていたらしい。それとも、私が知らなかっただけで、もともとそうだったのだろうか。
「『いや、おまえ、そもそも女同士は結婚できないぞ』って言うんだよ! ひどいよね!」
「……」
私に言えることがあるとすれば、声真似が結構似ているということくらいだった。
「それで、晩御飯も食べずに泣いてたら、『世界には同性同士でも結婚できる国もあるし、勉強して日本もそうなるようにしたらいいんじゃないか』って、教えてくれたの!」
「それで、成績トップで合格してしまったと……」
頭がいいのか悪いのか。うち、一応進学校なはずなんだけど……。
つまり、凛は約束を忘れてなんかいなくて、女性同士でも結婚できるように日本の法律を変えてしまうことにしたらしい。
何を言っているのかわからない……いや、わかるけど。
◇
体育館にキュキュッと上履きが床をこする音が響く。
凛は、髪をポニーテールにしてバスケのコートの中にいた。
素早く動き出すと、経験者らしい子から鋭いボールが入る。私なら、ちゃんと取れるかもわからないようなパスをすんなり受けると、そのまま流れるように前にいた子をドリブルで抜き去る。
そして、そのまま独走してレイアップシュート。
ボールを持った時の夢中な顔とかは変わらないなあと思う。
小学校の頃の凛はかっこよかった。
運動神経でも男子の誰にも負けなかったし、男子みたいにお馬鹿でもなくて物静かだったから、凛のことが好きな子は私以外にもいたはずだと思う。そこで、小さい頃に婚約済みの私は優越感を感じていたわけだけど。
コート内を駆け回る凛を眺めながら、凛の野望のことを思う。
結婚、はさすがにいくらなんでも先走りすぎだろう。約束したといっても、それは幼稚園の時のことだし。
じゃあ、つきあうのは?
私はつきあいたいんだろうか。今の凛と。
小学生の頃の私は、男子達よりもデリカシーがあって、線が細くて、綺麗な顔だちをしている凛を、漫画の中の理想の男の子のように見ていたと思う。
その時と同じ気持ちを今の凛に持てるんだろうか。
今の360度どこから見ても女の子な凛に。
凛はどうなんだろう。
子供っぽいことを言ってはいるけど、凛だってもう高校生だ。成績だって学年トップなんだから、言ってることほど頭の中がお花畑なわけではないはずだけど。
そんなことを思っている私の視線の先で、凛が嬉しそうに同じチームの子とハイタッチを交わしていた。どうやら、ゲームが終わったらしい。
「見ててくれたー」
そう言いながら、私の隣にくっついて座る。
ふわりと柑橘の香りが漂う……あと熱気も。
「暑いよ」
「えー」
……私とつきあいたいと思ってるのだとしたら、何もあの頃からこんなにもキャラを変えなくてもいいのにと思う。
私だって、凛が今も男の子みたいなままだったらこんなに悩んでいないかもしれない。鏡の前で真剣に制服の着こなしをチェックしていた自分を思い出すと、そう思う。
「凛、さ、どうして髪伸ばしたの?」
遠回しな聞き方。本当に聞きたいのは、どうして昔みたいに男の子の恰好をするのを止めたのかということだ。
「長い方が可愛いでしょ?」
可愛い、とは私も思うけど。
◇
数日後の放課後、日直だった私は教室で日誌を書いていた。私の他に残っているのは、おしゃべりをしているグループが数人、それに私を待っている凛と。
「ねえねえ、帰りアイス食べに行かない?」
そういいながら、私の肩から手を回してくる。
ドキン、と心臓が跳ねた。
「ちょっと待ってっ」
これはきっと、どうということのないスキンシップだ。仲のいい子同士なら普通だし、凛からしてみれば、私達は将来を誓い合った仲ということになっているのだから、なおのことだろう。
だけど、今の私は、この心臓の高鳴りをどう捉えていいかわからない。
「早く行こうよー」
私の反応を日誌を書く邪魔という意味にとったのか、それでも凛は離れてくれない。
顔が見えないから、声だけを聞くと昔の凛を思い出してしまうような、だけど、あの頃よりも柔らかい感触が否応なく今の、というよりももともと、凛が女の子であることを知らしめてくるような。
私と凛がどういう関係なのか、私は今の凛をどう思っているのか、心臓の鼓動がその答えを迫るみたいに早まっていく。
いや、こんなにくっついていたら、その心臓の音も凛に気付かれてしまうのでは!?
「待ってってば!」
強引に右手を振って、私は凛の小さい体を引きはがした。
離れた場所でおしゃべりしていた数人が驚いたみたいに止まって教室に沈黙が落ちた。
「……今日は先に帰るね」
無理に笑顔をつくってる顔でそう言って、凛はパタパタと走っていってしまった。
◇
翌朝、待ち合わせの場所に凛はいなかった。
昨日の夜は中々寝付けず、眠い目をこすってやってきたのだけど、いつも十五分前には来ている凛が待ち合わせの時間になってもこない。
思い当たることがないかといえば、思いきりあるわけなので、仕方なく私は一人で学校に向かった。
……謝らなくちゃ。
私にも言い分はあるけど、凛からしたらいきなり振りほどかれてわけがわからないだろう。
……私と顔を合わせたくないほど?
わからない。このまま、学校にも来ない気だろうか。
明日も?
考えて恐ろしくなる。自分の気持ちを整理する時間が欲しいとは思ったけど、凛に永遠に会えなくなることなんて望んでない。
……考えすぎ。もし、今日来なかったら放課後に凛の家に行こう。
そんなことを考えている内に気付けば周りに同じ制服が増えてきて、学校に着いた。
だけど、何か様子がおかしい。
校門のところに先生たちが立っていて、時々生徒を呼び止めて話をしている。
「げっ、服装検査じゃん」
私の前を歩く生徒(リボンの色からして上級生)の声が聞えた。
校門で服装検査って、本当にあるんだ……。中学ではなかったから、漫画の中のことみたいに思っていた。
心の中で自分の服装を確認する。制服も特におかしなことはしていないし、ベストやカーディガンの着用は自由。色も紺の地味なものだし。スカート丈も違反はしていないはず。
髪色は茶色がかっているけど、これは地毛で染めているわけではないから大丈夫、
「そこの茶髪、こっちこーい」
ジャージ姿の男の先生(見るからに体育の)が私に言った。
「髪染めるのは禁止だぞー」
「あの、これは地毛です」
「んー?」
髪をつままれて、私はビクッとしてしまった。男性が苦手というわけではないけど、髪に触られるのは嫌だ。
「あー駄目だ駄目だ。明日までに染め直して来い」
髪に触られた時の反応を何かやましいことがあると勘違いされたのかもしれない。
それとも、もしかすると地毛だろうが関係なく髪は黒にしなければならないという考えなんだろうか。そういう話は本当かどうかは知らないけど聞いたことがあった。
髪を染める? 自分の本当の髪と違う色に?
そんなこと、考えたことがなかった。髪を染めるのは禁止だって言ってるのに、どうしてそんなことを言われなければならないんだろう。
「待っ」
「待ってください!」
割り込むみたいに、私の後ろから聞き覚えのある声がした。
息を切らせてやってきたのは、凛だった。
私が驚いている間にも、私の横をすり抜けて先生に詰め寄る。
「茅原さんのこの髪は地毛です。私は子供のころから友達なので知ってます!」
「んー、なんだ上森か。しかし、知っているというだけじゃわからんからなあ」
「見てください。子供のころの写真です」
凛は胸ポケットから写真をとりだした。
私と凛が並んで写った写真。後ろにお母さんも写っている。昨日見たアルバムにも入っていた、動物園に行った時の写真だった。
当たり前だけど、この頃から私の髪の色は薄くて、今よりも薄いくらいだ。その茶色い髪を、この頃の私は今の凛みたいに二つにくくっていた。そして、一緒に写っているお母さんも茶色い髪をしているから、凛だけが黒髪という格好だった。
先生は写真と私と凛を見比べると、頭をボリボリとかいた。
「あーわかったわかった。いってよし」
先生から写真を受け取ると、凛は「ありがとうございます」と頭を下げた。
「いこ、ミキちゃん」
何事もなかったみたいな笑顔だった。
昨日のことを謝らないとという思いと、今起きたことを聞きたい思いが頭の中でこんがらがって、結局私は今気になっていることから聞くことにした。
「その写真、どうしたの?」
「生徒会の先輩がね、ミキちゃんの写真見せたら服装検査で地毛が黒くない子はチェックされるから気を付けた方がいいよって教えてくれたの。子供の頃の写真とか見せると、認めてくれることもあるんだって」
生徒会の先輩というのは、凛を生徒会に誘っているという人だろう。いつも私と一緒にいた気がするけど、いつの間に会っていたのだろう。というか、なんで私の写真を。
「ごめんね、私が寝坊しなかったら、もっと早く説明できたのに」
「それはいいけど、寝坊、だったの?」
「うん。昨日夜更かししちゃって」
凛が夜更かしした理由はわからない。私と同じように昨日のことを考えて寝付けなかったんじゃないかと思うけど、それを確認することはできなかった。
確かなのは、昨日あんなことがあったのに、凛が私を守ってくれたということだった。
◇
放課後、私は荷物をカバンにつめると、すぐに凛の席に向かった。
「あ、ちょっと待って」
凛がわたわたと荷物をカバンにつめる。いつもは凛が私の席にくるから、驚いているのかもしれない。
口数少なく、凛の前を黙々と歩いて、学校を離れた河原の道に来たところで口を開いた。
「私さ、凛はもう忘れてるんだと思ってた」
「忘れるわけない、けど、なんで?」
「だって、凛、びっくりするくらい可愛くなっちゃってたから。昔は男の子みたいだったのに」
「あー、うん……」
凛は、少し驚いた顔をしてうつむいた。
「小さい頃はね、わたしもお兄ちゃんと一緒がいいって言って、男の子みたいな恰好してたんだよね。スカートは動きづらかったし」
「うん」
「だけど、中学校に入ったら、制服もスカートになるし、身体も男の子とは違ってくるから、そのままなのも変だなって。でも、髪型とかどうしたらいいかわからなくて、それでね、初めはミキちゃんの真似っこで髪を二つにくくったりしてたんだ」
私が髪を二つにくくっていたのは小学校のころまでだけど、凛にとっては再会する前の私の最後の記憶ということだ。
「それで、クラスの友達とかと一緒に買い物行ったりしている内に、わたしもミキちゃんみたいに可愛い服も着たかったんだなあって、気づいたんだ」
「そっか……」
凛がそうしなかったのは、もしかしたら私のせいでもあったのかもしれない。私が男の子みたいな凛が好きだったから。
「本当はね、ミキちゃんと会うの怖かった。ミキちゃんが今のわたしのこと、どう思うだろうって」
そんな心配いらないって、私は言うことができない。
「ごめんね。だから、会ってからも、変にテンション高かったよね」
「……うん」
再会した凛は明るくなった。それはいい変化だろうけど、確かに不自然に明るいところもあったのだと、今になって気づいた。
凛はそこで、足を止めて、私を正面から見た。
「わたしね、今のわたしが好き」
迷いは、あるのかもしれない。
だけど、それを振り切るみたいに凛は言った。
「でも、迷惑かもしれないけど、ミキちゃんのことが好き」
小さい頃の約束は、凛が私の言葉を受け入れてくれたものだった。だけど今、凛は私の目を見て、そう言ってくれた。
だけど、私は――
凛が女の子だってことも最初から分かっていたのに、ずっと、突然現実を突き付けられたみたいに思っていた。
それでも凛が好意を示してくれることを、どう受け止めていいのか、私はどうなりたいのか、わからなかった。
私にとっての凛は何?
男の子?
友達? 将来、結婚したい人?
女の子?
それでも、私は凛とつき合いたい?
頭の中がぐちゃぐちゃで、だけど凛の事を傷つけたくはなくて、
だけど、それでも今すぐに凛の気持ちを受け入れることは、やっぱり無理だった。
「……わかんないよ」
涙がこぼれた。
「ごめ……」
ごめんねと言おうとして、喉が言うことを聞かない。
もう一度言い直そうとするのを遮るみたいに、私の頭に暖かいものが触れた。
子供のころからそんなに変わってない小さな手。凛の暖かい手が、ぽんぽんと、私の頭を撫でてくれていた。
大丈夫だよって、言っているみたいに。
◇
どれくらいそうしていただろう。
私が落ち着くまで、凛は黙って側にいてくれた。
「じゃあ、まずはお友達からで、どうかな」
私が落ち着いたのがわかったのか、少しおどけた口調で凛が言った。
先延ばしにしただけかもしれないけど、それが今の私が一番望んでいたものだった。
まだ声を出すのが不安だったから、私はコクンと頷いた。
それを見た凛はにっこり笑って、両腕を広げて……それを引っ込めて、右手だけを差し出した。
その手を握り返しながら私は、抱きしめられなかったことを少し寂しいと感じていた。
◇
「やっぱりまだちょっと慣れないなー」
朝の河原沿いの道。この辺りはまだ登校する生徒は少なくて、青い空に私の声だけが響く。
「早く慣れてよー。今のわたしが男の子みたいに壁ドンとかしたってかっこつかないんだから」
それはまあ、そうだけど。
「……男の子みたいな服装で生活してたら女の子とも結婚できます、とかなら、ちょっと真剣に考えるんだけど」
「そうはならんでしょ」
もし、そんな条件で結婚できるようになったとしたら、凛は本当にまた男の子みたいな恰好をするようになるんだろうか。
だけど、
「……それに、それは違うでしょ?」
凛自身が、今の自分が好きだといったのだ。
それなら私も、凛に自分を偽って欲しいとは思わない。
だから、あとは私が今の凛を受け入れられるのか、これから凛とどうなりたいのか、それだけなのだ。
私の言葉に、凛は一瞬驚いた顔をする。
そして、眩しそうに目を細めて微笑んだ。
◇
凛は友達だ。これまで、ずっとそうだった。
だけど、十年後の私達がどうなっているかは、私にもわからない。