者忘れ 者綴り
今日も世界を眺めて、寝転がって過ごす。
時計をチラチラと見つつも鏡で子供たちを眺めている。
「そろそろ、時間かな。」
よっこいしょと、起き上がり、隣においてあった紙束とペンを抱えて、部屋を飛び出した。
「…それで、ここに来たと。」
「…うん。だって書斎に八番目が居るんだもん。」
「なんじゃそりゃ。手紙についてはかのしy...彼が最も得意とするもんじゃないか。」
十三番目の工房の作業机に突然現れた彼女に、驚きもしない。
八番目は男でも女でもある。そしてどちらでもない。
故にまだ十三番目はいまだに間違える。
「少しは書けるようになったの?」
「なったとも!見ろよ、これを!」
と、取り出したのは漢字が…見たいな字がびっしりかかれた紙だった。
「ほほーよく頑張ったじゃん、んで覚えたの?」
「…うん。」
「なんだぁ今の間はぁー?」
「うるせぇうるせぇ、無理だよこんな細かいの。」
ぐちゃぐちゃに書いた紙を叩いて、お手上げのポーズをした。
「まぁテストじゃないし、見ながらでもいいと思うけど。」
「てすと?」
「学校のテストだよ。学んだことがちゃんとわかってるか確認する行事だよ。」
「…ふぅん。」
最近外の世界が気になってきた。
現実には帰りたくないけど、たまに15番目に本屋に連れていってもらう。
そこで読んだものを全部記憶する。
多少忘れるけれど、内容ぐらいなら覚えていられる。
勉強なんて、聞こえはつまらなさそうだけど。
好き勝手に出来るなら楽しいもの。
「(なるほどね…。)」
「満足か。」
「(うん、ありがとう。)」
「もう来た。」
手紙を出して数日後、すぐ返事が返ってきた。
「暇だったのかな?まぁいいけど」
どうしよう、ネタを考えてないぞ。
ー記憶力が優れているのですね
ーそちらの世界とこちらの世界の言葉が違うようですが
「…このまま文通を続けてもよいのでしょうか…ってさ。」
「ふむ。」
13番目が朗読してくれる。その方がよく理解できるから。
でも、説明が足りなかったのかも知れない。
ー貴方がこの世界の言葉に染まってしまったら…と
そういうことか。
「別になぁ染まると言うか。」
「根本的に考え方が違うのねこの人、人?」
「話してる限り人じゃないと思う…。」
どんな人なんだろう。
翼がある。散歩をする。破壊する。引きこもり?
まだ全体像がわからない。
「あっはは、外の世界をあまりよく思われていないってガッツリ書いてある、言ったの?」
「…んーそりゃばれるでしょ。」
あの子か。
ー自分が何も出来ていないと思われていたらそれを私に撤回させてください。
口元が少しはにかむ。
「散歩…。」
「してみたら?」
「へ?」
「意外と息抜きになるわよ。ずっと鏡から見てるだけなんでしょ?」
「…降りはするけど。」
「大体Sとおいかけっこしてるじゃない。」
「むぅ、わかったよ。」
下に降りてみる。
降りるときは大体、龍人を狩るときとか、悪戯しに行くぐらい。
歩くためになんて、考えもしなかった。
「(そもそも自分のために外出なんて、したことなかったし。)」
変化はあったかもしれない。
ずぅっとぼうっとしてたけど、今はいろんなところに足を運んでいた。
管理者たちとの会話も増えた気がする。
元々「共有」で知ってはいるけど、実際に話すとまた違う。
嘘をついたり、言い方を変えたり。
不思議と人間臭い。
「(まぁ今更そんなこと、当たり前だろうけど。)」
草原は青々していて、変わりがない。
人間どもは相変わらず、騒ぎ倒して威張っている。
龍人はまた、毎晩の祭の用意を。
獣人たちは暗い国を、明かりを灯し続ける為に働いていた。
最近は死者も少なく、穏やかだ。
「(四番目の功績は著しいな。)」
犯罪が減ったからか、六番目の仕事も少ないようだ。
「(欲望が満たされていれば、少しは減るよな。)」
宝石の実る森は未だに輝いていて、桜を見るたびにあの時を思い出す。
「(あれは度が過ぎていたかも知れない。だけどここは変わらなかったな。)」
異変の発端。
あの子が望まない場所。
ここは、負の土地だ。
「(絶対に忘れられない。副産物どもが)」
静かに怒りをつのらせる。
この宝石の輝きも元は…やめようこの話は。
命は美しい。
だからこそこの宝石たちも儚く美しい。
ただそれだけのこと。
「(そろそろ返事を…あ、そうだ。)」
今度も仕掛けがあると、書いてあったな。
耳を澄ませる…?
ザザザ…と心地いい、心が落ち着く音がする。
「?」
ずっと聞いていたいような音。
「(水の音?…もしかして、海なのかな。)」
好きな音。
目をつむればその場所に行けるような、いい音。
彼女はその手紙だけは小さく折り畳み、胸ポケットの中にしまった。
「(気になる。すごく気になる。こんな仕掛けをしてくれるのはどんな創造主なんだろう。)」
自分も仕掛けを作れば喜んでくれるかな。
何がいいだろう。
「(僕にできるものと言えば。)」
少し悪戯してやろう。
ちょっと悪い笑顔が浮かんだ。
拝復 はく明のつばさ いあさまへ
今回のしかけはすごく好き。
心地よくて今ぽけっとに入れていつもきいてる。
おきにいりです。
きおくの主だから全ぶおぼえていられる。
みんなが、おぼえてきたことをぬきとったり、おしえてもらったりして、べんきょうしてる。
ぼくもげんじつとかんけいあるけど、えいきょうとかは分からない。
知らないことはふしぎ。
べんきょうってたのしい。
さんぽ、ぼくもしてみた。
なんだかかわらなかったけど、ちょっとたのしかったかも。
ぼくも、このかみにしかけを作ってみた。
しかくに、二回折ってひらくほうを下にしてふってみてください。おもいっきり。
よろこんでくれたら、うれしい。
こんぺきの花べん
ぶるーろーずより
「…よし。」
そして、主は猫に化け、あの花の妖精に付いていくことにした。こっそりと潜り込もうと言うのだ。いつもの封筒を口に咥えて。
仕掛けは振ると沢山の色とりどりの宝石が出てきます。水晶が一番出てくるみたいです。
今回は少し賭けに出ました。
あの猫の姿(青薔薇をつけた黒猫)に化けて直接手紙を届けにいくということです。
不都合なら、申し訳ありませんが、会わない方向で調節お願いします。