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Chapter6 着火

「? どうしたの? チト」 


 急にチトが止まったので、問いかけるのと同時に身構えた。


「いや、寒い」

「え、そう?」


 逆立っていた黒毛がしんなりと落ちて、警戒を一応解く。

 いつもと全然変わらないと思うけれど。

「モダは毛で覆われているから気温を感じないんだよ、きっと」

「そんなことないと思うけど…………」


 毎年冬が来れば、家のストーブの前から微動だにしなくなるくらいには寒がりなんだけどなあ。


「まあ、この際モダの事はどうでもいい」


 失礼なことを言いながらチトは、近くの林の中から何本もの枝を拾い抱えてきた。

 それをボクの目の前にドサっと放ると、


「モダ、お願い」

「はい?」

「早くして、寒くて死にそうなの。火点けられるのあなただけなんだから早くして」


 ああ、焚火を作れということか。

 なんでチトの為にボクがそんなことをしなくてはいけないのか、死にそうなら死んでも構わないのに。


「早く」

「分かったよ」


 仕方なくボクは口から火を吐いて焚火を作ってやる。

 だんだんとそれは大きくなってきた。


「暖かい。生き返る」

「生き返る? なら消していいかな? ボクの身のためにも」

「そんなことする前に火に放り込む」

「丸焼き? 趣味悪いね。仮にも友だった者の姿のまま食べるなんて」

「…………そんなの今更だよ。丸焼きだろうがシチューにしようが小麦と練ってパンにしようが、友達を食べることには変わらない」

「急に良心の呵責でも芽生えた?」


「モダは私が非常食だったら食べる?」


「食べない。なぜなら人間はマズそうだから」

「食べないと死ぬって言ったら?」

「じゃあ死ぬ」


 ええ……とチトはあからさまに困惑を見せる。


「ボクらは人間と違って死ぬのは怖くないんだよ。死なんて皆平等に訪れるのに、なにが怖いのさ。遅いか早いかだけの違いじゃないか」

「じゃあ、私に食べられても良いのでは?」

「それは勘弁。普通に死ぬなら良いけど、人間なんかに食われる為に死んだとあっちゃ末代までの恥だよ。それにボクにはやりたいことがいっぱいあるんだ」


 何が可笑しいか、チトは安心したような表情でくすくす笑った。


「そっか、ならもう迷わない」


 ふん、とボクはそっぽ向く。

 ああ、なんてことをしてしまったのだろう。

 チトが折角良心の呵責に芽生え始めたのに。


 チトは十センチ大のパン屑をボクに与えた。


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