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Chapter2 非常食
ボクは命を狙われている。
誰にかって?
もちろん、目の前にいる人間の少女、チトに、だ。
「お腹、空いたね」
いよいよ来たかその時が……。
自然と自慢の黒毛を逆立て身構える。
「ボクは減ってない」
「うそ」
「ホントさ、キミが毎日パン屑しかくれないものだから、以前よりやせ細ってしまった。肉がスカスカになるほどには、ね」
それを聞くと、チトはくすくすと笑った。
「それはごめんなさい。でも骨でスープを作ることは出来るよ?」
一層警戒の念が際立った。
しかし、チトは何かをしようとする様子はない。
ただ西にある王国に向かって岩肌の道を行くだけ。
「それに今はその時ではないでしょう? 非常の時に食べるから、『非常食』って言うの」
そう、ボクはこの少女の旅仲間なんかじゃない。
ただの『非常食』だ。
いつ殺られて食われるか。警戒する毎日。
正直もう疲れた。
チトは五センチ大のパン屑をボクに与えた。