神からの依頼
向井のおかげで入り口が解放されていて逃げようかとも思ったが、去り際に話を付けて来るとか言っていたのを思い出し、のんびり室内で待っている事にした。
それから一時間ほど待っていると今日までご飯を出してくれていた兵士がやってきて牢屋から出してくれた。
久しぶりの外の空気は気持ちがいい。
牢屋の中もそれなりに快適ではあったがやはり外の空気はじめっとしてなくていいものだ。
身体を伸ばしていると俺を牢屋に連行したイケメン騎士が立っていた。
その顔は四日前と違ってどこか血色が悪い。
風邪でも引いたのだろうか?
俺のコンクリートヒールで治してやろうか。
そんな事を考えていたのだが。
「も、申し訳ありませんでした!」
開口一番謝られた。
往来のある通りの真ん中でいきなり何だと見ているとイケメン騎士は顔を上げずに叫び続ける。
「まさかあなたが四大神様と親しい方だったとは知らずにこの度ははっきりとした証拠もないまま容疑をかけてしまい失礼をしました。コンスタドール様からの祝福まで受けている凄いお方だとは……この件はどうかお許しを……」
まさかの平謝りである。
親しいも何もあいつと会ったのは一時間前が初めてだし何より容疑も何も犯人で間違いはないんだけどね。でもここまで下手に出られると偉そうにするべきか?
でもなぁ、虎の威を借る狐の様で気分が悪いし。
「あー、大丈夫ですよ。俺は気にしてませんから、牢獄生活も割と快適でしたし」
これは本当の感想だ。
直前にクエスト行くまでは次の日は何も食べられず街の外で野宿かなんて心配してた位だし。三食飯付きで少々固いがベッドまであった牢獄内は住みやすかったまである。
「おお、なんと寛大な方だ、流石はコンスタドール向井様のご友人だ! その、私は王都第二騎士団副団長を務めております、バルト・シューベルと言います。王都に立ち寄りの際は是非私を供に……」
それだけ言うとバルトとか言うイケメン騎士は、後ろにわらわらいた兵士に手で合図を送る。
たったそれだけで兵士は皆一礼し、バルト共々去って行ってしまう。
向井のおかげで牢屋から出れたけどこれでよかったのかな? というか友人じゃねーけどな。
首を傾げていると遠くから呼ぶ声がする。
声の方向を見ればカイン達がこちらに手を振っていた。
☆☆☆
「いやー、三浦が捕まった時はどうなるかと思ったぜ」
「俺もどうなる事かと思いましたよ」
「こんなに早く解放されたって事は誤解だったんでしょう? 酷い話ね」
「許せないわ、やっぱり私の魔法で」
「いや! いやいやいや、誤解というか……その、良いんですよ。ルウも魔法の準備をしないでください」
現在俺はカイン達と投獄前の約束通り食事をとっている。
とはいえ、約束とは違って俺が奢って貰っている側だ。
無事牢屋からの帰還祝いという理由である。
そして三人の中では俺は誤解で捕まったことになっているが、実際はバリバリ俺がやった事なのだ。
ただ、一応三日間投獄されたし、持ってた金も賠償金として取られたし償いは果たしたことにして欲しい……。
「ところでこれからどうするんだ?」
「これからというと?」
「俺とミアナは故郷に一度帰るつもりだ」
「しばらくしたら戻ってくると思うけどね」
ああ、そういえばそんな事話してたな。
あれ、ルウは?
「良かったらお前も来ないかと思ってな。ルウは来るって言ってる」
「あれ、でも……」
ミアナさんを見ると微笑んでいる。
「カインと相談して、もういっそのことルウを紹介すれば良いなと思ってね。一人放っておくのはまた違うしね」
確かに、繋がりがないなら作れば良いよね。誰かに押し付けるって言い方は悪いけど任せるよりはいい方法だと思うな。
「で、ルウが来るならあなたも来たら良いじゃないかと思って」
「え、俺?」
「ああ、別に悪くないだろう?」
「うーん、そうだなあ。それもありかぁ……」
「三浦! 三浦冬馬という者がいると聞いてきた!」
大きな音と共に扉が開く、見れば男が俺の名前を呼びながら入ってきた。
何だろう、排水設備の件か? もう金は無いぞ。
「あの、俺ですけど何か?」
男はクワっと目を見開き俺の方へ歩いてくる。
「今すぐギルドへ来い、マスターがお呼びだ」
「ギルドへ? はぁ……」
あの強面のおっさんが俺に? 何の用だろう。
☆☆☆
「おお、来たか。座れ」
ギルドへ来るとカウンターの奥に通された。
廊下を歩き、一室へ入る。
ギルドマスターの部屋の様だ。
全体的にやや乱雑に物が置かれている。中央には重厚な机、その前に柔らかそうなソファーがある。
促されるままソファーに座ると正面にマスターが座った。
その眼光は鋭く真剣な顔だ。
「なんだ、カインも来たのか」
「興味があったから付き添いで来ただけだ。気にしないで話してくれ」
カインの言葉にマスターはまあいいかと頷いた。
「聞かれても構わない案件ではあるんだがな。実は三浦に特別な依頼がある」
「依頼? 俺にですか?」
マスターは一通の紙を見せてくる。
依頼書だ。内容はこう書かれている。
『勇者こと三浦冬馬君、西のパデキアという村で邪教徒が暴れているらしい。どんな被害が出ているかは行けば分かるが、それの調査に向かって欲しい。勿論解決してくれても構わないよ』
「三浦へ直での依頼か、パデキアねぇ」
「…………これ、依頼者は誰か分かります?」
俺の問いかけにマスターは、ふう……とため息をつく。
「言わなくても分かるだろう?」
「……断らせてもらえたら」
「え、良いのか!? お前への直の依頼だろ? 大金貰えるぞ?」
カインが驚くが別に俺金に困ってるわけでもないからなぁ……。
しかも邪教徒って、絶対神戦争に巻き込まれる奴じゃん。
依頼者も絶対コンスタドール向井とかいう変態神だろうし。
「拒否は許さない、神直々の依頼だ。神からの依頼を断ればお前以上にギルドの評判が下がる。それと依頼料はあまり高くないぞ」
マスターは低い声で言う。
依頼料高くねーのかよ、というか拒否権なしか……。
「ええ……じゃあ、分かりました、受けさせてもらいます」
やだなあ……。